Phase1-4:すべての始まりは困難である
ヤタガラスは港へと降り立ち、翼を畳んだ。第二首都港はイーオンの壁の中にある港の一つである。滑走路は主に小型の戦闘機の離着陸に使用され、機体の管理も港が行っている。
「おいおいヤタガラス。ずいぶん派手にやったな」
「だろ? ヒーローインタビューは事務所を通してくれ」
ヤタガラスを降りたケイは、待っていた髭面の筋肉質な男に軽口を返す。
「今夜のトップニュースは、“ガイドラインのスカウトマン、緩衝地帯のシンボルに大穴を開ける”で決まりだな」
「違うな。“ガイドラインのスカウトマン、謎の暴走ステルス機を撃墜”。こうだろ」
言いながら、ケイはコックピットを見上げる。
「降りられるか?」
「うん」
ノックスは慎重に縄梯子に足をかけ、ヤタガラスを降りた。
「驚いた。久々の新人は頭が器用だな」
「ああ、間違いない。この子は最高のお宝だ」
ノックスは首を左右に振って二人を見た。
「紹介しよう、この髭のおっさんは――」
「おっさん言うな」
「わかった。この髭はここの港の管理人で、ハンス」
「髭に名前があるの? 髭が港を管理してるの?」
「そうらしい。不思議だよな」
ノックスは興味深そうに頷いた。
「お前な……」
「失礼。で、彼女はノックス」
「よろしくな、お嬢ちゃん」
「よろしく」
そう言って、ノックスは右手を差し出す。ハンスはその小さな手を握り返した。
「ハンドシェイク」
「おうおう、ちと無表情だが、礼儀正しい良い子じゃないか。ちゃんと教育してやれよ」
「わかってるって。……ところで、あのF-117、どこの所属かわかるか?」
「さあなあ。俺は他の港と連携取ってないからな。わからん。なにか気になるのか?」
ケイは数秒間考えを巡らせるが、すぐに首を振った。
「……いや、たぶん新手の初心者狩りだろ。襲われてたフライングドッグ、かなりのふらふら運転だったしな」
「よくあの腕で緩衝地帯に出たもんだ。お嬢ちゃんも戦闘機に乗りたくなったら、しっかりと訓練を受けてからにするんだぞ」
「わかった」
ケイはだるそうに手を叩いて、会話を止めた。
「はいはい、井戸端会議はこれでおしまい。カラスの世話頼むよ」
「鍵よこせ」
ケイはジャケットのポケットからキーを取り出し、放り投げた。ハンスはキーをキャッチして、ヤタガラスの縄梯子を上っていく。
「丁寧に扱えよー」
「うるせえ、わかってるよ」
「へいへい。さ、首都へご案内だ」
「ばいばいハンス」
ハンスはコックピットからノックスに手を振り、ヤタガラスを格納庫へと移動させ始める。
二人は港の出口へと歩いていった。
「悪いな、口の悪いおっさんで。日本をこよなく愛するドイツ人なんだけど、日本語を覚える環境が良くなかった」
「どこで覚えたの?」
「戦争さ」
「戦争……」
ノックスはケイの言葉を繰り返して、黙った。