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Phase8-4:正義を行うべし、たとえ世界が滅ぶとも

『逃げて! みんな逃げて!』

『ログアウトしろ!』

『ヴィレッジのみんなも早く! 絶対にそこまで行く!』

 ガイドラインの共有チャンネルは怒号が飛び交い、最早機能していなかった。村内はそれを聞きながら、口に手を当てて悔しげな表情を浮かべる。

イーオンとアエラの力で再び月面まで移動してきた六人は、茫然と頭上を見上げていた。月からでもわかるほどに、機械仕掛けの神の力は強大だった。

「どうしたの?」

「私にも、わからない」

 不安そうなノックスの頭に、コンスルが手を置く。

「わっ」

 不意に、ルシオラの耳元でアラートが鳴った。視界には“不正な操作を検知”という表示が明滅する。

「な、なんだこれ……」

「僕も今、アラートが出てる」

「どういうことですか?」

「おそらく……サイバー犯罪対策課の作戦だと思う」

 村内が絞り出すように言って、ルシオラの表情が曇る。

「倉島たちが……?」

「うん。お世話になっている管理官から聞いた話だけど、今年に入って、インターポールは各国のサイバー犯罪担当の部署に、直接極秘の指令を出していたらしい。国が支給しているインターフェイスのシステムは、サイバー犯罪対策課の管理下にある。なんらかのツールを使って、無人で操作することも可能なはずだ。君のキャラクターがショウタイム中勝手に動いたのは、この事態のための動作テストだったのかもしれない。あの時ログインしていなかったのは、僕たちの中でルシオラだけだったから」

「それって……私のキャラクターを使って、プレイヤーを襲わせようとしていたってことですか?」

「うん。おそらくこれは、全世界の警察機構からのオムニスへの攻撃と見ていい」

「……打つ手が無くなって、公的機関が組織だった荒らし行為とは。なんともアホらしいですね」

「まったくだね。……どうする?」

「当然、戦います」

 アラートを停止して、ルシオラは言った。

「言うと思ったよ。とりあえずヴァレイ君に――」

「お待ちください」

「戦闘は推奨できません」

 イーオンとアエラが、ルシオラたちの会話に割り込んできた。

「なぜ? このままじゃオムニスが荒れ放題になる」

「現在発生している現象の解析が完了しました」

「申し訳ありません、私たちのミスです」

「どういうことです?」

「時計、あるいは携帯端末をお持ちであれば、時刻をご覧ください」

 村内はポケットから携帯端末を取り出し、時刻表示を確認する。その異常に、即座に気が付いた。

「……時間が、一秒以上進まない」

 端末の時計の秒針が、一と〇を往復していた。

「ダミーの時刻情報を参照させられている可能性があります。現在、オムニス内は四月二十一日午前零時零分零秒と午前零時零分一秒を繰り返している状態です」

「午前零時にはアーティファクトの耐久値が回復します。ゆえに、通常の戦闘による目標の討伐はほぼ不可能です」

「さらにオムニス内の時間が経過しないため、一度死亡して強制的にログアウトさせられた場合、再ログインが不可能となります」

 立て続けに絶望的な状況を聞かされて、ルシオラも村内も閉口した。

「システムをいじって、仕様を変更することはできないんですか?」

 コンスルの意見に、イーオンとアエラは首を振った。

「オムニスは、オムニスユーザーの端末に複雑に根を張っています」

「システムの根幹となっている仕様を変更すれば、様々なプログラムに歪みが発生し、結果的にオムニスは崩壊するでしょう」

「……それでは、その一秒に一斉に攻撃を集中させるのはどうでしょうか。生き残っているすべてのユーザーの力を合わせれば、あるいは」

 村内の提案に、イーオンとアエラは一度顔を見合わせ、頷いた。

「理論上は可能です」

「目標の解析も終了しています。私たちが取り込んでいたアーティファクトの中に、プログラムの断片が仕込まれていました」

「プログラムは同じ属性を持つアーティファクトのプログラムを参照しています。一つ一つは無害でも、必要なプログラムがすべて揃った時に、全く別のコードとなって新たなプログラムを形成します」

「目標を構成するすべてのアーティファクトには耐久値が設定されており、その総和を一つの耐久値として共有しているようです。合計すると、システム上の目標の耐久値はおよそ十の二十四乗です」

「十の……二十四乗……」

 途中まで説明が理解できていなかったルシオラも、最後の一文だけはわかった。

「建造物とは違い、アーティファクトは耐久値をゼロにすることで破壊状態にすることができます。現存するオムニスユーザーすべての最大威力の攻撃を一秒間に集中させることができれば、目標討伐は可能です」

「しかし、現在もオンラインのユーザー数は減り続けています。状況が長引けば長引くほど、目標討伐の可能性は低くなっていきます」

「どうされますか?」

 訊ねられて、険しい表情だったルシオラは、ふてぶてしく笑った。

「そんなもん、可能性があるならやるしかないだろ」

 コンスルもその言葉に頷く。

「アエラ。私をアエラに連れていってください。多少の人は集められるはずです」

「わかりました。ノックスはどうしますか?」

「ノックスはこちらで預かってもいいですか? 彼女……いや、彼は大きな戦力になります」

「お願いします。ノックス、お兄さんたちの話を聞いて、助けてあげてくれ」

「うん、わかった」

 ノックスは頷き、村内とイーオンの傍までやってくる。

「ルシオラ、君はどうする?」

「グラウコスがいなくなって、このキャラクターはほとんど戦力にならないかもしれません。ログインしたままここに放置します。先にケイでログインして、イーオンでヴァレイに指示を出します」

「役所にプレイヤーを集めてください」

「あそこは神殿と同じく、不可侵な場所です。目標の攻撃は役所の内部までは届きません」

 イーオンとアエラの助言に頷き、ルシオラは動かなくなった。

 村内は転送を待ちながら考える。

「……それにしても、巧妙な作戦だ。見事にオムニスのシステムの弱点を突いている。一体誰が……」

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