Phase8-3:正義を行うべし、たとえ世界が滅ぶとも
ミヒロを含む、その時緩衝地帯にいたプレイヤーたちは、なにかが始まったことを肌で感じていた。バグじゃないかと疑う者もいれば、ゲーム内の新しいイベンドではないかと話す者もいた。しかしそんな声も、アーティファクトの集合が形を成していくうちに無くなっていった。
静寂に包まれた緩衝地帯で、一人のプレイヤーが言った。
「神様だ」
単体ではただのオブジェでしかなかったそれは、緩衝地帯上空で巨大な人の形になった。ラインの乙女を遥かに凌ぐ大きさ。コラージュのように継ぎ接ぎだらけで、顔がない。無数のアーティファクトがいくつもの輪となって、その巨体を取り巻くように浮遊していた。
その神々しさに、その場に居合わせた誰もが見惚れた。
そして神は、その両の手を東西へとかざした。主人の意思に従うかのように、周囲のアーティファクトが手元に集まってくる。アーティファクトは円を形成し、回転を始めた。その円の中心へエネルギーが収束していく。
放たれた。
光弾は軌跡を残し、一瞬でイーオンの、そしてアエラの壁に着弾した。リパルション・ブラストでも傷一つ付かなかった壁が、粉砕され、溶解し、蒸発した。壁を貫通した光弾は二つの世界の首都まで届き、その地表を大きく削り取った。
プレイヤーたちの神への賛美は、一瞬にして畏怖へと変わった。最初の一撃の後、神を取り巻くアーティファクトたちは緩衝地帯に散っていった。プレイヤーを見つけては光弾を放ち、即死級のダメージを与えていく。
一斉に逃げていくプレイヤーがほとんどだったが、察しの良いプレイヤーはどこへ逃げても無駄だと悟り、携帯端末を使って動画を撮り始める者もいた。しかし即座にアーティファクトに見つかり、動画にはほとんどなにも映らなかった。
機械仕掛けの神は、無慈悲にその世界を蹂躙していった。




