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Phase1-3:すべての始まりは困難である

 瓦礫はほとんどの地面を覆い隠しているようで、実はしっかりと通り道があった。その内、人が歩ける小さな道はディガーたちの通った跡だった。しかし通り道はアーティファクトの発生によって塞がれることもある。常にその通り道が変化することから、瓦礫の迷宮とも呼ばれていた。

 キャラクターの操作に長けたノックスも、突然発生するアーティファクトに足を取られることがしばしばあったが、転びそうになる度にケイが支えた。

 しばらく歩いて、二人は大きな通り道に出た。それは六車線の道路ほどの幅で、ディガーの作った道とは違い、土の地面が露出していた。

 ノックスは左右を交互に見るが、道はどこまでも続いていて先が見えない。

「道路?」

「んー、まぁそんなもんだけど、大体みんな“ライン”って呼んでる」

「ライン……」

「実はこの世界においてかなり重要な線なんだ。来るべき時が来たら説明しよう。んで、あれが馬車でございます」

 執事のような滑らかな動作で、ラインの端に停められている黒い塊を示した。

「馬車?」

「そ。“フライングドッグ”ってタイプ。個人が持てる中で最も高価な軽戦闘機ってところかな。こいつも緩衝地帯で発掘されたものなんだ」

「馬なの? 犬なの?」

 予想外の質問に、ケイは一瞬硬直する。

「あー……ノックスはどっちだと思う?」

「……ソードフィッシュ?」

「なにそれ、魚?」

「うん、魚。メカジキ」

「へー、物知りだね」

「あと戦闘機」

「あ、うん。戦闘機だけど」

 いまいち噛み合わない会話に、ケイは苦笑する。

「名前はあるの?」

「あ、ああ。“ヤタガラス”って名前が付いてる」

 黒く塗装された機体は、三つの柱脚によって地に立っていた。その姿は翼を畳んだヤタガラスのようであったが、なによりも特徴的なのは、機体下部前方から伸びる角のような砲身だった。ノックスがメカジキを連想した理由はこれだった。

 二人で機体の傍まで来て、ケイはジャケットのポケットから携帯端末を取り出す。画面を操作すると、コックピットハッチが開いて縄梯子が下りてきた。ケイはノックスをひょいと持ち上げて、縄梯子を上らせる。

「どっちに座ればいいの?」

「後ろのVIPシートへどうぞ」

 指示通り、ノックスは後ろの座席へと収まった。ケイも縄梯子を上り、前の座席へと乗り込む。正面のパネルを操作すると縄梯子が収納され、ハッチが下りてくる。コックピット内は一瞬計器とパネルの光のみの薄闇になるが、システムの起動音声と共に光を取り戻した。

「浮いてる」

 ノックスは見たままの感想を述べた。コックピット内のほとんどがモニターになっており、密閉された空間でありながら、外の様子が三百六十度視認できるようになっていた。ノックスからは、自分と座席周辺の機器だけが空中に浮いているように見えている。

「怖いか?」

「ちょっと怖い」

「なんでも初めては怖いもんだ。さて、当機は間もなく離陸致します。快適な空の旅を」

 ケイはキーを差し込んでエンジンを始動させ、ペダルを踏み込みながら操縦桿を引く。ヤタガラスは翼を広げ、緩やかな滑走の後、静かに飛び立った。ノックスが下を見ると、大きく見えたラインがあっという間に細長い線になっていく。

 かなりの高度を取って、ケイは操縦桿を垂直に立てた。

「上からの眺めも良いだろ」

 ノックスはモニターに顔を押し付けて景色を眺めまわしていた。地上にいる時よりもはるかに、その物量が見て取れる。

「遠くにある壁が見えるか?」

 訊ねられて、ノックスは身を乗り出してケイの頭の上から先を見る。

「うん」

「あれがイーオンの壁。アエラにも同じような壁がある。集合、ってわかるか?」

「数学の?」

「そう。厳密にはもっといびつな形なんだけど、イーオンとアエラ、二つの円の積集合の部分が緩衝地帯になってる」

「とてもわかりやすい」

「だろ?」

「ナルトビエイがいる」

「ん? なると? えい?」

 唐突に話題が変わって戸惑うケイに、ノックスは腕を伸ばして右前方を指差した。遠くを、黒く薄いなにかが、旋回しつつひらひらと飛んでいる。そのエイのような飛行物体は、先を飛ぶ一機のフライングドッグを追いかけているようだった。

 しばらく空中で優雅なダンスを披露していた二機だったが、唐突な破裂音と共にフライングドッグが火を噴いた。花火の燃え残りのように、炎に包まれながら落下していく。

 ケイはパネル上のレーダーを確認する。撃墜された機体の反応が消え、周囲に機影はないことになっている。しかしノックスが見つけたそのエイは、ゆっくりと旋回しながらヤタガラスへと向かってきていた。

「……ノックス。乗り物酔いはする方か?」

「わからない」

「そうか。心配だったら目は閉じておくといい」

「え? わっ」

 ケイは思い切り右に操縦桿を傾け、ペダルを踏み込んだ。ヤタガラスは機体をほとんど反転させながら一気に高度を下げていき、その後を追うように弾丸が飛来する。シートベルトをしていなかったノックスが後部座席で跳ねまわる中、ケイは地面に向かって垂直に飛行しながらゆっくりと機体を回転させた。そしてギリギリの高度で機体を水平に戻し、低空飛行で真っ直ぐに飛び始める。

 エイは不気味にゆったりとした動きでヤタガラスへと軸を合わせ、空を滑るように下降し始めた。

「ノックス、起きてるか?」

 これまでとは違った堅い声で、ケイはノックスを呼ぶ。

「うん」

 ひっくり返った状態で座席に座っていたノックスは、返事をしながら体をくねらせて元の体勢に戻った。

「酔ってないか?」

「目を閉じてた」

「素晴らしい。なるべく安全運転するが、もう少し我慢してくれ」

 ロックオン警報が鳴る。ケイはほとんど反射的にパネルを操作し、デコイを射出した後、機体を九十度左に傾けて旋回した。数秒遅れて、後方でミサイルが爆発する音が響いた。

「くっそ、どこの所属だ……」

 悪態をつくケイの視界に、横たわる巨大な飛行戦艦の残骸が入ってきた。ケイは旋回を止め、飛行戦艦の残骸へと進路を取る。

「ノックス、エイはついてきてるか?」

 重力を受けて左のモニターに貼り付いていたノックスは、体勢を立て直し、座席にしがみつきながら後ろを確認する。

「いる」

「オーケー。一つ頼みごとをしてもいいか」

「なに?」

「あいつとの距離が知りたい。レーダーに映らないステルス機だから、手動操作で計算するしかないんだ。今後ろの操作系統をオンラインにする」

 ケイが素早くパネルを操作すると、後部座席用のパネルが起動する。

「俺はあんまりよそ見できないから、計算をお願いしたい。まず後部カメラの――」

 指示を出そうとしたところで、前方のモニター、ケイの視界の隅にワイプ画面が表示される。そこには後部カメラからの映像が映し出されていた。

「こう?」

「そうだ! あとはパネルに映ったエイを触って、出てきた選択肢からアナライズを選んでくれ」

 ノックスが言われた通りに操作すると、ワイプ画面にシステムが計算した機体のステータスが表示される。機体のサイズや兵装、最高速度、そして現在の距離も。

「これでいい?」

「完璧!」

 ケイは敵機と一定の距離を保ちつつ、操縦桿を細かく操作し、機体を上下左右に揺らしながら真っ直ぐに飛行戦艦を目指した。

 機内に再びロックオン警報が鳴り響く。

「待ってました!」

 獰猛な笑顔を浮かべ、ケイは思い切りペダルを踏み込んだ。エンジンの出力はほぼ最大になり、機体は音速を超える。ヤタガラスはベイパーコーンを纏いながら、緩衝地帯に轟音を響かせて飛んだ。

 進行方向に見える飛行戦艦の残骸が、みるみる大きくなってくる。

「ぶつかる?」

「ぶつからない!」

「でもぶつかるよ?」

「こうする!」

 ケイは操縦桿の先端に付けられた安全装置を親指ではじき、スイッチを押した。機体下部の二つの加速器と砲身に稲妻が走り、雷鳴のような音と共に中性粒子ビームが照射される。光線は一瞬にして飛行戦艦に直撃し、轟音と衝撃波を放ちつつ、船体を貫通する大穴を開けた。

 ヤタガラスは器用に翼を畳み、穴を通り抜けた。

 ありったけの置き土産を残して。

 エイがすでに発射していたミサイルは、船体内に放たれたデコイを追いかけて爆発した。エイは爆発を回避しようとしたが、巨大な船体そのものを回避するには速度が出過ぎていたし、距離も足りなかった。

 エイは為す術もなく飛行戦艦に激突し、爆散した。

「ふうー……」

 ケイはワイプ画面で追手がないことを確認して一息つくと、優雅にインメルマンターンを決めて飛行戦艦の方へと戻る。エイの痕跡は、飛行戦艦の船体に残された黒ずみと、立ち昇る煙だけだった。

「ご愁傷様だ」

「ごしゅうしょうさま?」

 ケイが振り返ると、ノックスの足しか見えなかった。

「飛ぶ前にシートベルトを締めろって言ったろ?」

 ノックスは何事もなかったかのように座席に座りなおす。

「締め方がよくわからなかった。なにがごしゅうしょうさま?」

「さっきも言ったけど、戦闘機は物凄く高いんだ。あのステルス機は特に高価で、ざっと五百万ロスくらいする」

「ロス?」

「仮想通貨。五百万ロスは日本円だとざっと五十万くらい」

「そうなんだ」

「そうなの。さ、寄り道はおしまいだ。イーオンの首都へ行こう」

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