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Phase6-4:私は道を見つけるか、さもなければ道を作るであろう

 緩衝地帯、旗艦サピエンティア艦橋。

「観測班より入電。敵の航空部隊が動き始めました」

「巨人の動きは?」

「二機が接近中」

 通信士の報告に、今回指揮を任されたコンスルは口に手を当てて悩んでいる様子だった。

「なぜ、二機なんでしょう」

「その……これは風の噂で耳にしたのですが」

 乗組員の一人が小さく手を上げる。

「どうやらイーオンは、巨人の乗り手に新規プレイヤーを抜擢したそうです。おそらく、まだロクに動かすことができないのでは……」

「ロクに動かすことのできないプレイヤーを、戦の主役に抜擢する理由がわかりません。必ず意味があるはずです」

「す、すいません……」

 乗組員は背を丸めて自分の仕事に戻った。

「竜騎士隊に伝令を。いつも以上に警戒しつつ、巨人の迎撃準備に入ってください」

「了解」

 コンスルの指示を、即座に通信士が実行する。


 緩衝地帯、アエラの壁北方面。

「伝令! 敵巨人が接近中! 竜騎士隊は迎撃準備に入れ!」

 通信士からの連絡を受け、小隊長が声を上げる。

「ど、どうすれば?」

「落ち着くんだなホープ。まだおいらたちの出番じゃないんだな」

「え、そうなんですか?」

「見るんだな」

 そう言ってマーカスが指差した先では、竜騎士たちが空へ飛び立ち始めていた。

「相手の地上部隊がここまで到達するには多少時間がかかる」

「まずは空から攻めてくるやつを、竜騎士たちがお出迎えだ」

 後ろからハンプティとダンプティの解説があって、ホープは納得した。

「……来るんだな!」

 マーカスの声に僅かな緊張が滲む。ホープの目に、遥か遠くから近付いて来るなにかが映った。


 緩衝地帯、旗艦サピエンティア艦橋。

「二つの風切り音を確認! 小さなエンジン音も無数に接近中!」

「観測班からも、敵機影接近の報告あり!」

「全艦隊、右に九十度回頭。艦砲射撃準備」

 聴音士と通信士の報告を受け、コンスルが各艦に指示を飛ばす。サピエンティアを含むアエラの飛空艇は、全艦が横腹を晒す形になった。

「目標との距離、三〇〇〇を切りました」

「観測班からの座標情報、計算完了。砲撃手、誤差修正中」

 乗組員の報告を聞きながら、コンスルは砲撃手へと繋がる伝声管を開く。

「相手がいつも通りの作戦であれば、最短の道を作るために必ず真っ直ぐに飛んできます。落ち着いて狙ってください」

『了解!』

「距離の読み上げ、お願いします」

 アエラの壁の上に陣取る観測班から距離情報を受け取り、通信士がそれを輪唱するように声に出す。

「目標との距離、二五〇〇、二三〇〇、二一〇〇、一九〇〇、一七〇〇、一五〇〇――」

「撃て!」

 コンスルの鋭い声で、アエラの全艦隊が一斉に艦砲射撃を開始した。二機のラインの乙女たちの進行方向を狙い、轟音と共に砲弾が次々と撃ち出される。

「観測班より入電、すべて回避されています」

「あの弾幕の中を……。敵も腕を上げているようですね」

『すいません……』

 伝声管から申し訳なさそうな声が聞こえてきて、コンスルは微笑む。

「構いません、砲撃を続けてください。撃墜できれば最善ではありますが、重要なのは足止めです。壁を越えられないように弾幕を張り続けてください」

『りょ、了解!』

「敵巨人、七五四メートル地点で進行を停止しました」

「ずいぶん早いですね。艦砲射撃を停止、弾薬を節約します。あとは竜騎士たちに任せつつ、各艦の判断で必要と思った時に発砲してください」

 コンスルの指示に、砲撃手や各艦の艦長から了解の返事が返ってくる。

 間もなくイーオンの戦闘機たちが追い付いてきて、空中戦が始まった。竜騎士たちは小回りが利くことを活かして、戦闘機の射撃を回避しながら長槍ですれ違いざまに弱点を突いていく。戦闘機もその火力を活かし、弾丸や粒子砲をばらまいて竜騎士たちを落としていった。

 一方で、召喚獣がラインの乙女と会敵する。

 トルストイを肩に乗せたウンディーネは、規格外の大きさの三叉槍を手にヴェルグンデに迫った。しかし、その突きは容易く回避される。セミオートで動く召喚獣は強力な力を持っているが、機動力ではラインの乙女に大きく劣る。しかもヴェルグンデは三機の中でも軽量なシーカータイプのラインの乙女であり、接近して攻撃を当てるのは至難の業だった。

 ヴェルグンデはウンディーネの攻撃を避けつつ、装備しているライフルでアエラの艦隊を射撃する。高速で飛空艇に迫る弾丸を、竜騎士の一人が盾になって止めた。

「……これならどうだ」

 トルストイは次の命令を思考する。ウンディーネは命令を受け取り、槍を構えて横薙ぎに振った。鋭い水の刃が放たれる。ヴェルグンデはなんとか急上昇して回避するも、足先に被弾する。遠距離攻撃を織り交ぜることが有効であることを確認し、トルストイはさらに攻勢を強めた。

 激しい空中戦がアエラの壁北方面で繰り広げられる中、南方面は守り合いの戦いだった。フローズヒルデはリパルション・コントロール技術を用いたシールドを味方機に張って守り、シルフは傷ついた竜騎士たちを癒しの風で回復する。

 しかし激戦の北や南とは打って変わって、中央部はとても静かだった。ジョーはサラマンダーの上、胡坐をかいて暇そうにしている。

「いいなー。あいつら楽しそうだなー」


 緩衝地帯、アエラの壁北方面。

「ホープ、そろそろ出番なんだな!」

「あっ、はい!」

 空から落ちてくる敵や味方の残骸に見入っていたホープは、マーカスの声で我に返る。

 マーカスは自慢の大盾を展開し、アイゼンをしっかりと地面に食い込ませ、右肩を前にして防御の体勢になった。ホープはその盾の上に繋げるように自分の盾を構え、角度をつけて対空防御を担当する。壁の前に並んだ最前列の兵士たちが、同じように盾を構えていく。それはアエラの壁の前の、もう一枚の壁となった。

 ヴェルグンデが瓦礫を吹き飛ばして作った道を、装甲車やトラックが走ってくる。それらは道の途切れている地点で止まると、大量のプレイヤーを吐き出した。それぞれ武装したイーオンの住人たちが、瓦礫の山を上ってアエラの壁に迫る。

「き、来た……!」

「任せろ!」

 ハンプティはそう言うと、長杖を手に詠唱を始める。ハンプティだけでなく、ウォーリアーの壁の内側にいるメイジ全員が詠唱し始めた。弓を持った遠距離タイプのウォーリアーも、空に矢を向けて弓を引き絞る。

「撃てーっ!」

 小隊長の号令で、一斉に魔法と矢が放たれた。矢や火球、氷の柱に雷と、様々な攻撃がイーオンの軍勢に降り注いだ。ほとんどのプレイヤーが大ダメージを受ける中、体力の高いソルジャーや足の速いシーカーたちが矢の雨の下を走り抜けていた。

「おらあああ!」

 大型のヴァイブロブレードを持ったソルジャーが、マーカスの盾に獲物を振り下ろした。

「ふんぬ!」

 マーカスは低い重心でその斬撃を受け止める。しかし、ヴァイブロブレードの振動によって盾が削られ始めた。それに気付いたマーカスは、一時的に盾を縮小させる。水蒸気を噴出させながら盾が小さくなり、マーカスとソルジャーが顔を合わせた。

「な、なんだこの小さいの」

「小さいからって油断をすると、痛い目を見るんだな」

 マーカスが別のモードで蒸気機関を再起動すると、盾の表面が瞬間的に強く振動した。その衝撃で、ヴァイブロブレードは瓦礫の山まで吹っ飛んでいった。

「おいらの盾は、攻撃だってできる」

 マーカスが腕を振って盾をソルジャーに叩きつけると、今度はソルジャーが吹っ飛んでいった。そのまま矢の雨に撃たれて体力がゼロになり、強制的にログアウトさせられる。

「す、凄いマーカスさん!」

「ま、こんなもんなんだな」

「調子こいてないで早く盾を展開しろ!」

「さっきから弾丸が飛んできてんだよ!」

「はっ! すまないんだな」

 ハンプティとダンプティに怒られて、マーカスはまたガチャガチャと盾を展開させ始めた。

 ホープはようやく冷静に考えられるようになってきて、この横陣の強さを思い知っていた。高火力の遠距離攻撃を雨のように降らせることによって、ほとんどの敵は近付くことすらできない。時折数人が突破して来ても、マーカスのような例外もあるが、盾で受けて隙間から剣や弓で応戦すれば問題ない。遠距離からの銃撃や手榴弾によってダメージを受けることはあるが、その際は最後列にいるヒーラーの回復を受けられる。

 今回が初参加のホープにも、この壁を突破する方法はないように思えた。

 イーオン側は数十分粘ったが、徐々に勢力を落としていき、最終的には攻撃が止んだ。

見上げると、いつの間にか空には竜騎士たちしかいなくなっていた。

「うおおお!」

 一人が上げた雄たけびに呼応するように、それぞれが武器を掲げ、兵士たちはアエラの壁を守り切った喜びを叫んだ。

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