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Phase6-3:私は道を見つけるか、さもなければ道を作るであろう

 イーオン、マグニフィセント・ヴァレイ。

「作戦の説明は以上だ。集まってくれたことに、改めて感謝する」

 グラン・ヴァレイ空軍総司令官による作戦の説明が終わって、一同は拍手を送ったり、敬礼をしてみたり、それぞれの反応を示す。かなりの人員が集結してはいたが、それはアエラの十分の一にも満たなかった。

 端の方にはガイドラインの一団が陣取っていて、ノックスやケイたちの姿もあった。

「ねえ、こんなんで大丈夫なのかな? みんなちゃんと動いてくれると思う?」

 ミヒロがケイに耳打ちする。

「さてね。最悪俺たちでなんとかするさ。今回は秘密兵器もいるしな」

 ケイは前に立っていたノックスの頭に手を置いた。ノックスは若干不安そうな顔をケイに向ける。

「ちゃんとできるかな?」

「別にちゃんとできなくてもいいさ。俺たちが全力でフォローする」

「うん。頑張ろう」

「ああ」

 ケイがノックスの頭を荒っぽく撫でていると、人の隙間を縫って、一組の男女が近付いてきた。

「どうも、ガイドラインの皆さん」

「ノックスちゃん、迎えに来たよ」

 二人はそれぞれ、シーカー役のヴェルグンデ、メディック役のフローズヒルデのライナーだった。村内が前に出てくる。

「よろしく頼むよ、二人とも」

「ああ。しかし残念だったな村内。大役を取られて」

「いやいや、僕には荷が重すぎた。この子ならイーオンに勝ちをもたらしてくれるかもしれない」

「正直私は半信半疑だったけど、一緒に練習してみて勝てるかもしれないって思っちゃったよ」

「そうだろう? 二人も先輩として負けないようにね。健闘を祈るよ」

 村内が敬礼をして、二人の戦友も軽い敬礼を返す。

 ケイがノックスの背を押した。

「さ、行ってこい」

「うん。ハンドシェイク」

 ケイは小さく笑って、ノックスの手を握った。満足したノックスはケイたちに手を振り、二人に手を引かれてラインの乙女の格納庫へと向かう。

「さ、俺たちも出撃の準備だ」

「よっしゃ」

 ケイとミヒロは互いの拳をぶつけ合った。


 イーオン、ウォルプタース。

 特設会場は静かな盛り上がりを見せ始めていた。スクリーンの前にはライブ会場のように人が詰めかけ、まだ誰に賭けるかで揉めているグループもあった。

 一方イッテツとシイナは、アリーナ席の庇の上に並んで座っていた。さっきまでイッテツとシイナがいたテーブル席は、増えてきた人に押しつぶされるようにして姿を消している。

「こんなとこ上れたんだね」

「特等席だな。操作が上手いやつしか上れないだろうが」

 二人がいる南側の庇は、すべてのスクリーンが見渡せる観戦にもってこいの場所だった。同じことを考えたプレイヤーも、庇の上にちらほらと見受けられる。

「しかしほんとに操作が上手いなお嬢ちゃん。初めて会った時のピアノも、並のプレイヤーじゃあんな風には弾けない。いつからオムニスをプレイしてるんだ?」

「うーん、十年くらい前からかな?」

「じゅ……俺よりベテランじゃないか。というか、当時何歳だ?」

「三歳?」

 イッテツは頭を抱えた。

「大丈夫?」

「ああ……色々納得した」

「納得? あ、ほらそろそろ始まるよ!」

 スクリーンに残り一分のカウントダウンが表示される。背景には上空からの緩衝地帯の様子が映し出されていて、右のサブスクリーンにはアエラの、左のサブスクリーンにはイーオンのプレイヤーたちの映像が割り振られていた。

 開戦が近付き、アエラのサマナー三人が召喚を始める。三つの陣が展開され、中央にはサラマンダー、北には美しい人型の召喚獣ウンディーネ、そして南には同じく人型のシルフが現れた。

 イーオン側も第一首都港の門が開き、中から三体のラインの乙女と、飛行戦艦アークが姿を現した。各首都港からも戦闘機が次々と発進し、観衆が沸いた。

「あ、馬券買わなきゃ!」

「オムニス内時間で開始後十分までは購入を受け付けてる。焦らなくても大丈夫だ」

「うー、でも始まったら見るのに集中したいから買う!」

 言いながら、シイナは携帯端末を操作して馬券の購入を済ませた。

「イッテツさんはまだ買わないの?」

「ああ。まだ少し迷ってる」

「え、この時点で……? 大丈夫なの?」

「始まってから少し確認したいことがあるんだ。それが済んだら買う」

「ふーん? あ」

 残り十秒を切って、カウントダウンをする会場の声はさらに大きくなる。

「きゅー! はーち! ななー!」

 シイナもカウントダウンに参加し始めた。

 緩衝地帯を飛ぶドローンが、両世界の軍勢を捉える。凛々しい顔立ちで開戦を待つ者、そわそわと落ち着かない者、召喚獣の上で獰猛に笑う者、そして浮遊する一機のラインの乙女。イッテツはその脇に黒いフライングドッグが寄り添っているのを見て、目を細めた。

カウントダウンが進行していき、

「さーん!」

「にー!」

「いーち!」

 ウォルプタースに集まったプレイヤーたちの「ゼロ!」の声が響き渡った。

 日本時間午前九時。オムニス内時間午前零時。カウントダウンが終わり、開戦のファンファーレが高らかに鳴り響く。会場はその日一番の盛り上がりを見せ、それぞれが思い思いの声を張り上げた。

 オムニス全域で、ダメージ判定がオンになる。

 それと同時に、画面上に動きがあった。両世界共に、開戦と同時に緩衝地帯に飛び出していくプレイヤーたちがいた。

「わー、動きだした動きだした」

 シイナは興奮気味にスクリーンと携帯端末の画面を見比べた。携帯端末には現在の緩衝地帯の状態が表示されており、プレイヤーを示す小さな光点が一斉に動き出していた。このデータはヴェルグンデの索敵能力を使って配信されている。

「開始と同時に考えなしに飛び出すのは、イーオンもアエラもほとんどがライトユーザーだ」

「そっか。こんなに散り散りに攻めても意味ないもんね」

「ああ。しかし全く無意味なわけじゃない。ライトユーザーはライトユーザー同士で潰し合うのが仕事だ」

 冷静に分析する二人の下では、スクリーンに映し出された先兵たちを応援する声が沸き起こっていた。

 そして開始から数分が経ち、ようやくイーオン側のスクリーンの映像が大きく動きだした。

「ちょっと見せてくれ」

 言われて、シイナは携帯端末の画面をイッテツの方へ向けた。丁度イーオン側の赤い光点が二つ、アエラに向けて動き出しているところだった。複数の緑の光点もそれに続く。イッテツはそれを確認して、自分の携帯端末を取り出す。

「え、さっき言ってた確認ってこれ? 今の状態でなにがわかるの?」

「秘密だ」

「えーっ! もういいじゃん!」

「あと三十秒待て」

 シイナが携帯端末の時計を見ると、あと三十秒で馬券購入の締め切り時間だった。イッテツはギリギリまで待って、直前で馬券を購入する。直後、窓口、サイト共に馬券の購入が締め切られた。

「はい、三十秒経ったよ」

 イッテツはなにも言わず、自分の携帯端末の画面を、ふくれっ面のシイナに見せた。

「……ん? ええーっ!」

 騒がしいプレイヤーたちの声に負けず劣らずの大声で、シイナは驚いた。イッテツが購入したのは、ソルジャータイプのラインの乙女であるヴォークリンデの搭乗者、ノックスの馬券だった。

 しかしシイナが驚いたのはその人選だけではなく、

「じゅ、十億ロス……!」

 その馬券を購入した金額にもだった。

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