Phase5-7:人は教えている間学んでいる
「もうあれは反則だよ! 今ならNPCに惚れる気持ちもわかるね!」
ミヒロは興奮した様子でまくしたてた。三人は役所の食堂へ来て、大幅に消耗したスタミナを回復すべく、食事を取っている。食堂は六人掛けのテーブルが一定間隔で配置されており、ミッション前のプレイヤーやミッション後のプレイヤーでほぼ満席だった。
「エイミーの護衛をする必要がないから、敵は強めの設定。ボス級のキャラに追い詰められたところを、NPCの狙撃で劇的な勝利。まったく、粋な演出ですこと……」
ケイは皮肉をこぼしながらナポリタンを咀嚼する。
「まあまあ。危ない目にあった分報酬が割増されてるんだから。序盤のミッションで十万ロス貰えるなんて信じられないよ。良かったねえ、ノックス」
「ありがとう。よくわからないけど」
ノックスはパスタを巻くのに苦戦しながら答えた。その様子を見て、ケイは唸った。
「不思議だ」
「なにがよ」
「あとで説明する。あ、リーダーこっちこっち!」
ケイが手を振って呼んだのは、短い癖毛が特徴的な私服の青年だった。青年は気付いて手を振り返すと、人ごみに揉まれながらケイたちのテーブルまでやってきた。
「リーダー久しぶり! なんでここに?」
「ケイ君に呼ばれたんだよ。いやー、相変わらず凄い人だね。僕が役所に入り浸ってた頃よりも酷い」
ミヒロの質問に朗らかな笑顔で答えながら、青年はケイの隣に腰かけた。
「急に呼んじゃってすいません。ノックス、紹介するよ。この人がガイドラインのリーダーで、村内さん」
「やあノックス。噂は聞いてるよ」
「ノックスです。ハンドシェイク」
ノックスはパスタを半端に巻いたフォークを置いて、右手を差し出した。村内はその白い手を握り返す。
「凄いね。ほんとに初心者なの?」
「本人はそう言ってるけど、正直信じられないし、信じたくないっていうのが本音ですね」
ケイの言葉に、ノックスは僅かに悲しそうな表情になる。
「なにか悪いことした?」
「いや、凄すぎるんだ。あ、総司令さんこっちこっち!」
ケイが手を振って呼んだのは、軍服を着こんだ金髪の青年だった。金髪の青年は呆れた様子で額に手を当てた。あれだけ騒がしかった食堂が静まり返っている。
「総司令だ……」
「なんでこんなところに……」
小声で交わされるプレイヤーたちの会話をよそに、総司令と呼ばれた男はケイたちのテーブルまでやってきて、村内の隣に座った。それを見ていたミヒロも目を見開く。
「な、なんで総司令がここに……?」
「こいつ――」
「こいつ?」
ケイが睨みを利かせる。
「……すいません。ケイに呼ばれたんだ。できれば総司令じゃなくてヴァレイと呼んでくれ」
「ちょっとケイ……あんたどういう人脈持ってるの?」
「最近知り合ってね。お世話になってるんだ」
にやにやと話すケイに、イーオン空軍総司令官、グラン・ヴァレイはうなだれた。
「で、一体なぜ僕と彼が呼びだされたのかな?」
ケイはナポリタンを食べ切ると、手を合わせた。
「単刀直入に言うとですね、ノックスをライナーに推薦したい」
「……えっ?」
一瞬の沈黙があって、ミヒロが声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って。いくら優秀だからってライナーは無理でしょ。ショウタイムはもうすぐだし、まともに動かせるわけが――」
「試すだけならタダだ。空軍司令部に行こう」




