Phase5-3:人は教えている間学んでいる
更衣室で制服に着替えたノックスは、驚くほど様になっていた。制服はいわゆる軍服ワンピースと呼ばれるデザインのもので、カシミアドスキンのような生地のテクスチャが使用され、装飾も非常に細かく作り込まれていた。支給された制服に加えて、ミヒロが用意したスパッツとソックス、ケイが拾ってきたブーツを組み合わせている。
ケイとミヒロも制服に着替えていた。
「久しぶりだな、初期装備」
「私は可愛いからたまに着てるけどね。さて、ブリーフィングに行こうか」
三人はエレベーターで作戦室へと移動する。
「ここからは独立したエリアなんだ。プレイヤーは俺たち三人しかいなくて、あとはみんなNPC」
「NPCには挨拶しちゃいけないの?」
ノックスの純粋な疑問に、ケイはバツの悪そうな顔をする。
「あー……、あんまりする人はいないな」
「でも中にはNPCに本気で惚れちゃう人とかもいたりして、問題になってるらしいよね」
ミヒロが挟んだ話題に、ノックスは興味を示す。
「NPCを好きになっちゃいけないの?」
「そりゃ、人間じゃないからね。好きになってもどうしようもないよ」
「そうなんだ」
ノックスは納得したように頷いたが、その会話を聞いているケイの中で、もやもやとした気持ちが渦巻いていた。
その気持ちの正体がなんなのかを探っているうちに、エレベーターは目的の階へと到着した。そこは夜の病院の廊下を思わせる薄暗い通路だった。ケイとミヒロがエレベーターを降りて、ノックスもそれに続く。
エレベーターを降りてすぐのところにあるドアに、“OPERATIONS ROOM”の文字。ケイがドアを開け、三人は中に入った。
作戦室にはすでに傭兵たちが集まっていたが、これもすべてNPCだった。三人は空いている席を見つけ、ノックスを中心に並んで座る。
「ゲームだってわかってるんだけど、なんか緊張するよねここ」
「今更普通の女の子アピールはよせよ」
「ん? ごめん、聞こえなかったけどなにかほざいた?」
「……今、さらに普通の女の子らしいと感じたよ」
「ノックス、こいつ本当にそう言った?」
「聞いてなかった」
ケイは小さくガッツポーズを決め、ミヒロは舌打ちをした。
そうこうしているうちに、作戦室に制服を着た老齢のNPCが入ってきた。
「うっわ、隊長だ懐かしい」
「お世話になったよねー」
「私語は慎め」
隊長に怒られて、二人は顔を見合わせて小さく笑った。
「それではブリーフィングを始める」
隊長は巨大なモニターの前に立つと、画面に触れて一人の人物のデータを表示させた。
「今回は救出任務だ。彼女の名前はエイミー・ブレナン。イーオンの誇る研究者の一人だが、先日アンドロイド軍によって誘拐された」
「役所のミッションにはストーリーがあるの。アンドロイドたちと人間が戦ってるっていう設定」
ミヒロの耳打ちに、ノックスが頷く。
「彼女は西のアンドロイド軍本拠地、メトロポリスの研究施設に幽閉されているとの情報がある。これから地下鉄道を使ってイーオン最西端まで移動し、そこからヘリに乗り換える。研究施設の屋上へ降下し、そこから侵入してもらう」
「研究施設はメトロポリスのど真ん中だぜ」
「脱出のルートは?」
NPCの作戦に、NPCが挙手をして質問する。
「最後まで説明を聞け。今回の作戦は三班に分かれてもらう」
モニターに研究施設の画像が表示される。研究施設は上から見ると三枚刃のプロペラのような形をしており、北西、北東、南のプロペラの先端にマーカーが表示されていた。
「ユーリの班をアルファチーム、アルフォンスの班をブラボーチーム、ノックスの班をチャーリーチームとする。エイミーを発見した班はすぐに無線を使って連絡しろ。連絡を受け次第、残りの二班が戦闘を開始。敵を引きつけている間にエイミーを連れた班は屋上へ上がり、ヘリで回収する。その後残りの二班も合流しながら後退、ヘリからの援護を受けつつ、屋上で回収する」
「どの班が最初にお姫様を見つけるか、勝負ってわけだ」
NPCの一人が軽口を叩く。
「ま、俺たちの班が見つけることになってるんだけどね」
と、ケイがノックスに耳打ち。
「そうなんだ」
「じゃないと面白くないでしょ?」
「よくわからない」
ミヒロも参加して、三人は顔を寄せ合って小声で話した。
「そこの三人! 私語は慎めと言ってるだろ!」
隊長の一喝に、反射的に「ごめんなさい」と三人とも謝った。
「まったく……作戦は以上だ。各員装備の確認をしろ」




