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Phase4-4:人は、彼らが信じたいものを容易に信じる

「亡くなったレナの両親は、戦時中に被爆していました」

 帰りの車の中、土佐は唐突に語りだした。

 弥永たちは病室ですっかり話し込み、時刻は午後六時を回っていた。

「その影響か、生まれつき免疫力が低いんです。だから軽い風邪でも油断はできない」

「……あの学校は、戦災孤児のための孤児院だったんですね」

「ええ。今でも、戦争の影響は残っています。被害を受けた子供たちを引き取って、あそこで育てているんです」

「……ご立派ですね」

 弥永のこの言葉は、自分の父親を思い浮かべ、比較してのものだった。

「私も、妻を亡くしましてね。息子も生まれた時からずっと病院にいます。同じような目に遭っている子供たちを、放っておけなかっただけなんですよ」

「ロスを使った農畜産物の販売も、子供たちのために? 確か考案したのは土佐さんでしたよね」

「よくご存知ですね。私は昔、仮想通貨を使った小さなSNSサイトを学生時代の友人と運営していたことがありまして。その時の経験から思いついたんです」

「なるほど。……土佐さんは、今の世の中をどう思いますか」

 突然の質問に、土佐は助手席の弥永に一瞬目をやった。弥永はぼんやりと沈んでいく夕陽を眺めているようだった。

「と、言いますと?」

「いや、別に深い意味はないんですが。土佐さんの若い頃とは、かなり生活が変わったんじゃないかと思いまして」

「もう何十年も経ちますからね。世の中も変わっていきますよ」

「それはそうなんですが……。それにしても急過ぎる気がしませんか? 私が子供の頃とも大きく変わっている」

「それは、やはりオムニスが生まれたことに起因するでしょうね。……弥永さんは、今の世の中になにかご不満があるようですね」

「そういうわけでは……。いや、本当のところ自分でもよくわかっていないんです」

「ほう」

「実のところ、オムニスやロスが生まれたことで色々と嫌な思いはしました」

「それは……申し訳ない。ロスの台頭によって、様々な産業が打撃を受けたことは、私も知っています」

「でも、今ではオムニスやロスに支えられて生きている人たちがいる。それを否定することは、また誰かに私と同じような思いをさせるんじゃないかと……」

 土佐は車を走らせながら、少し悩んで口を開いた。

「……誰にも、なにが本当に正しいのかはわかりません。もしかしたら、本当に正しいことなんて存在していないのかもしれない。だけどもしあなたが思う正しさがあって、なにかを変えたいと思うのなら、心の声に従って戦ってください」

「そう……ですね。ありがとうございます」

「アエラの固有名詞にはラテン語が多く使われていますが、ラテン語のことわざにこういう言葉があります。“正義を行うべし、たとえ世界が滅ぶとも”」

「たとえ世界が、滅ぶとも……」

 弥永がその言葉を反芻していると、車が学校の駐車場に停められる。校舎の一階からは騒がしい声が聞こえていた。

「さ、暗い話はこれくらいにして、食事にしましょう。レナから美味しいものを沢山食べさせるように言われてますから、覚悟してくださいね」

「……お手柔らかにお願いします」

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