Phase4-1:人は、彼らが信じたいものを容易に信じる
「じゃ、行ってきます」
「うん。くれぐれもやりすぎないように」
「わかってますよ」
弥永は車を降りると、運転席の癖毛の男に手を振った。男はそれに対して軽い敬礼で応え、車を発進させる。
それを見送って、
「さて、と」
一息ついて歩き出す。ボストンバッグを肩にかけた弥永は、いつものスーツ姿ではなく、ジーンズにブラウスとカーディガンのラフな格好をしていた。肩には旅行用の大きな鞄をかけている。
辺りは緑が溢れていて、
「あっ」
久しぶりに履いたスニーカーはあっという間に泥で汚れた。
群馬県の山間部に位置するその村は、ロクスソルス王国の本拠地だった。周囲では無人の農業機械が田畑を耕している。オムニス内でプレイヤーが操作しているものだった。中には人が乗っているものもあって、手を振ってきた初老の男性に、弥永は会釈を返した。
しばらく早朝の田んぼ道を歩くと、横長の建物が見えてくる。学校の校舎らしきその建物が、コンスルに指定された待ち合わせ場所だった。
“すめらぎ学園”と書かれた銘板を確認して、弥永は様子をうかがいながら校門をくぐる。
「ん?」
視線を感じて昇降口の方を見ると、薄暗い校舎内に蠢くものが見えた。そして、それは一斉に飛び出してきた。
「わー!」
「きゃー!」
「うわ、うわわわ」
元気な声と共に現れた子供たちに、弥永はあっという間に取り囲まれた。子供たちが抱きついたりおぶさったりしようとするので、徐々に体勢を保てなくなり、最終的には地に伏した。
「あれ? この人先輩じゃないよ?」
「ほんとだ、先輩じゃないね」
「なんだー」
子供たちが倒れた弥永の頬を突いたりしていると、校舎の中からエプロン姿の大男が出てきた。
「こ、こら。どきなさい」
男は子供たちを散らすと、弥永を助け起こした。
「どうもすいません、子供たちが……」
「い、いえいえ……元気があっていいですね……」
弥永は鞄を背負い直し、乱れた服や髪を整える。
「自分はここで子供たちの世話をしている、長谷川というものです。こんな格好ですいません」
「ああ、お気になさらず」
「せんせー、先輩じゃなかったー」
「そうだよ。この人はお客さんなんだ。だからあんまり失礼なことしちゃダメだよ」
「はーい!」
子供たちは揃って手を上げた。
「すいません。校長が来るまでもう少し時間があるので、良かったら中でお待ちください」
「あ、はい。そうさせてもらいます」
「お前たちは教室に戻ってなさい」
「はーい!」
「ばいばい、お姉ちゃん!」
子供たちは言うが早いか、一斉に校舎内に駆け込んでいった。弥永は引きつる笑顔で手を振った。
「それでは、ご案内します」
「お世話になります」
先に歩き出した長谷川に付いていこうとして、弥永はまたも視線を感じて校舎を見上げた。窓際の席に少し大人びた女の子が座っていて、目が合うと微笑んで手を振ってきた。
「……?」
見覚えのない女の子だったが、一応手を振り返してから長谷川の後を追った。




