まるで御伽噺のような
私はアイリス。
国王陛下の側妃にして寵姫。
この国において私より身分が高いのは前王妃様くらいだ。
世間一般において、私は幸せの絶頂にいるらしい。
(そんなことはないんだけど)
客観的に見て、確かに陛下はいい男だ。
切れ長の瞳に、整った顔立ち。
甘さの中に涼やかさのあるご尊顔は、見つめると卒倒してしまうとご令嬢に話題だ。
身体付きもがっしりした武人のもので、男らしさに溢れている。
性格も穏やかで公平。
下々のものにも優しく、国民に敬愛されている。
(私は好きじゃないけど)
陛下は私を気に入って下さっているようだが、私にとってはどうでもいい。
そもそも好みではないのだ。
私は明るく一途な、所謂ワンコ系が好きだ。
身体付きもほっそりしている方がいい。
太陽みたいな笑顔を振りまいてくれると最高だ。
だが、現実は非情だ。
私は外に出ることもままならない後宮暮らし。
そもそも貴族の娘である私に結婚に関して選択肢などなく、親の意に添うものしかない。
他の側妃達は陛下に愛されようと必死なようだが、私にとってはどうでもいい。
好みではない男に良いようにされて、私の淡い夢は儚く散ったのだから。
陛下の渡りがある次の日はベッドの上の住人になる。
猿か色街の英雄か、といった夜に大変強い陛下の相手は苦行だ。
だが悪いことだけではない。
私がダウンするので、陛下は2日に1度は他の側妃のもとに行くからだ。
ちなみに彼に我慢、という観念はないらしく渡るとそちらの側妃とも仲良くするらしい。
我慢されると私の体力がマイナスになるので、ぜひ頑張ってもらいたい。
つらつらとベッドで考えていると、ばたばたと足音が響く。
行儀の悪い行動は誰がやっているのだろう。
侍女の行いはその主である側妃の責任なので自重していただきたい。
バンッ
「アイリス様~っ!」
まさかのウチの娘でした。
お前さんは私の評判をそんなに落としたいのか。
そうでなくても寵姫という訳で嫌がらせを山のようにされているのに。
しかし今は要件を聞こう。
説教はそのあとだ。
「何があったの?」
私が声をかけると、ハッとした様子で姿勢を正した。
どうやら礼儀作法を忘れたわけではないらしい。
「あのっ、ローザ様がっ」
あぁ、あの侯爵家の。
陛下を愛しすぎて暑苦しい方よね。
私に嫌がらせする暇があるなら陛下の寵愛を得る努力をしなさいよね。「ローザ様が、ご懐妊されました!」
(っよし!)
行儀が悪いですが、侍女に見えないところでガッツポーズをしてしまう。
この国は最初に懐妊した女性が正妃になる。
もちろんある程度爵位が上の者に限るが、侯爵令嬢なら間違いない。
これで嫌がらせが少し減るだろう。
侍女は「アイリス様が寵姫なのですのに…」落ち込んでいるようだが、私 としては万々歳だ。
そもそも懐妊しないよう、ありとあらゆる努力をしたのだ。
好きでもない男の子供を孕むなどごめん被る。
―まるで御伽噺のような恋といわれているけど、私にその気はない―