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「マサキ!!」

 カズと俺は名前を叫びながら駆け寄った。

 のぞき込んでみるとそれは縦に三メートル位しか深度が無く、マンホールと呼べるのかも怪しかった。

「痛えよぉぉぉぉぉぉ……助けてよぉぉぉぉぉぉ……」

 力なく答えるマサキの顔を見て俺たちは息をのんだ。

 落下時に強く打ったのだろう、左半分がみるみるうちに腫れていき、もはや別人のようになってしまっていた。

 顔のダメージをみて、不謹慎だが少し安心する。

 少なくとも後頭部に損傷が無ければ命には別状はない。

 顔は見た目よりダメージが少ないと聞いた事を覚えていたからだ。

 とにかく引っ張り上げて応急処置をする事にするが……。

「カズ、とりあえず引っ張り上げるぞ、カズ!」

「……」

 マサキの変貌ぶりに声を失っているカズの横っ面をひっぱたく。

「しっかりしろ!マサキは生きてる!落ち着け!」

「……う、うん。」

 穴から引き上げた時には左の顔面はサッカーボール大に腫れてしまっていた。

 鼻孔からの出血も酷く、それをみてカズの表情からさらに血の気が失せていく。

(こいつはだめだ……。おれがしっかりしなくちゃ……。)

「ここにいろ!すぐに戻る!」

 自転車の置いてあるところまで駆け戻るとサイドバッグを漁り、救急道具の入ったショルダーバッグを担ぎ、二人の元へ戻った。

 マサキの手当を進めながら、俺はカズを報告に走らせた。

「とにかく落ち着いて状況を説明するんだ。救急車が必要なことも伝えろ。一応頭の検査も必要だからな」

「……うん。」

「(……大丈夫かよ)頼んだぞ」

 後にTVでの放映を見て、カズのヘタレっぷりを笑ったのだが、この時はまだ知るよしもない。


 俺はマサキの左顔面に冷却スプレーを吹き付けると次に鼻孔の止血を始めた。

 口の中も切ってしまっているようだが、そちらの治療法は心得ていなかったので放っておく。

「血がたまったら我慢しないで吐き出せ」

「ああ、分かった」

 この頃になるとマサキはいつものクールさを取り戻していた。

「……ごめんね、シュウジ君。そーとー怒られるよねえ……」

「無事……とは言えないけど……命があったんだ……。とにかく余計なことを考えるなよ。」

「そうだね……」


 程なくMさんとカズが戻ってきた。

 Mさんは珍しく静かな口調で俺に説明を求めた。

 俺はそれがたまらなく不気味だったが、人様の子どもの命を預かっている以上、彼女の心の内は穏やかではなかったろう。


 近くに住む親切なご夫婦の車に乗せられ、マサキとMさんは病院へと消えていった。

 俺とカズは隊列に戻ることなく、TVクルーたちとその場で二人の帰りを待つ。

 いや、正確に言うとその場から動けなかったのと、しでかしたことの重大さから"大人"という存在のそばで不安を取り除きたかったのだ。

 事実、彼らは俺たち二人に責任がないことを繰り返し言い聞かせてくれていた。

 しかし、それが逆に不気味だった。

 Mさんがそういう大人ではないことを俺もカズも身にしみて分かっていたからだ。


 時が永遠に感じた。

 自分の周りだけ、時の流れがゆっくりと流れているような錯覚を覚え、踏みしめているはずの大地の感覚が頼りなくなっていく。

 言いようのない浮遊感が俺とカズを襲う。

 くそ……マサキ……頼む……早く戻ってきてくれ……。

 その感情は奴を心配するよりも、自分たちがこの状況から早く解放されたがっているに過ぎなかったかも知れない。


 運命の輪は、もはや勢いよく回り出していた。

 もちろん、それはマイナスの方向であり、これ以後俺の行動は全てが裏目に出ることになる。

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