二
左折開始後に方向指示器を点滅させるワンボックスカーを眺めながら、つくづく相性の悪さを感じていた。
カレンダーの"赤い日"と私との事だ。
思えばあの日も"日曜日"だったおかげで、しなくてもいい苦労をしたものだった。
のどの渇きを感じ、お行儀よく並んだ"よつわ"の列をエスケープすると、私はとある河原で休憩をする為にFZ1を停車させる。
三角州の生まれの悲しさか、河川の流れを見ていると心が平静を取り戻してくれるのだ。
あまり手入れのされていないせいかこの河川敷は虫たちの楽園となっているようで、まるで私を案内するようにトノサマバッタが羽を広げて宙を舞う。
青く澄み切った空。
あのときは見上げる余裕などなく、私とタケシの網膜には灰色のアスファルトが写り込むのみだった。
「転倒ですか?」
「違うよ!その車とぶつかったんだよ。ふらふらと蛇行して追突したんだ」
Mさんは一つ年上の彼(仮にユウヤとしておこう)の両目の間を押さえつけながら、半ばあきらめた様子で笑みさえ浮かべていた。
その顔があまりに優しげな表情を作り出していたので俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
ユウヤ君を安心させる為であろうが、見ていてあまり気持ちのいいものではない。
「とりあえずみんなを連れて来ます」
再びサドルに跨ると隊列へと戻り皆を呼び戻した。
とにかくユウヤ君の自転車はもはや自走は不可能なくらい破壊されてしまっていた。
Mさんは俺に自転車屋を探してくるように指示を出す。
「後の一人はお前が選ぶんだよ。二人で行動するんだから人選はしっかり。分かってるな」
選ぶだって?選択肢なんかありゃしないじゃねえかよ。
俺は迷わずタケシを呼んだ。
「どうなの?開いてた?」
「いや、休みみたいですね。今気付いちゃったんすけど、日曜なんですよね、今日。だから……」
タケシと俺をぴったりとマークしているTVクルーに思わず愚痴を漏らす。
茹だる暑さに加え、事故現場が山中という二重の苦しみに"日曜日"という悪魔が手を貸した。
隣町までは五十キロ。俺だけなら2時間もかからないが……。
三軒目の自転車屋も休みだった。
この山中で三軒も存在したこと自体が奇跡だよな……。もう2時間も休憩なしの落胆の旅を続けている。
少しづつ遅れ始めるタケシを考えて静かにペダルを漕ぐのをやめた。
「タケシ。あそこに洞穴があるのが見えるか?」
「はい」
「二十分だ。あそこで休憩して二十分後に出発しろ。俺は隣町まで急ぐ」
履いていたタイヤのブランドの事などこの時俺は気にも留めていなかった。
日没まであまり時間がないのだ。先を急ぐしかないし、タケシは右の太ももが痙攣を始めてしまっている。
俺の選択に間違いはなかったはずなのだ。
しかし、すでに運命の輪はゆっくりと逆に回り出し、これから俺自身を襲う不運の兆候はもう、その輪郭をはっきりさせ始めていた。