トトカルチョで婚約破棄を
「公爵令嬢ジャクリーヌ! 貴様とは婚約破棄だ!」
王立学園の卒業パーティーで第一王子ハルクが宣言すると、会場に歓声と悲鳴が響き渡り異様な興奮に包まれた。
気を良くした王子が先を続けようとするが、皆、興奮気味に、悔しそうに話し込んで、誰も見ていない。誰かが捨てた沢山の小さな紙切れが宙に舞っている。
「ハ……ハルク様。何ですのこの騒ぎは」
ハルクの横に立ったアデイルが、ハルクの腕に縋り付くが、ハルクにも分からない。
「一体……」
その時、ジャクリーヌが高く響く音で手を二度叩いた。
一瞬で静まり返る会場。
皆の注目を集めてジャクリーヌが言った。
「ご覧のように、第一回ハルク王子婚約破棄トトカルチョは、3枠の『王立学園の卒業パーティーで婚約破棄』となりました。配当は3.5倍。当選金の支払いは、明日以降ホミズ銀行で受け付けます。投票券をお持ちになっていらしてください」
わあっと会場が湧く。
ジャクリーヌは皆を見回しながら、
「ご参加いただいた皆様、ありがとうございました」
と頭を下げると、万雷の拍手に包まれた。
ジャクリーヌは、唖然としているハルクとアデイルに向き合うと
「ご協力ありがとうございました」
と笑いかけた。
「こっ、こっ、これはどういう事だ! ジャクリーヌ!」
訳が分からないが取り敢えず怒るハルクに、ジャクリーヌは優しく説明を始めた。
「『第一回ハルク王子婚約破棄トトカルチョ』、つまりハルク様がいつ婚約破棄をするかという賭けでございます」
「はあ?」
【1】学園卒業後に穏やかに婚約破棄。
【2】学院卒業後にアデイル嬢と一緒に大揉めして婚約破棄。
【3】卒業パーティーで婚約破棄。
【4】卒業前に穏やかに婚約破棄。
【5】卒業前にアデイル嬢と一緒に大揉めして婚約破棄。
【6】アデイル嬢と別れて婚約破棄はしない。
「以上の6枠から選んで賭けていただきましたの。最終締切は卒業一週間前。あ、我が公爵家が胴元となっています」
「は……?」
「なので皆様、ハルク様とアデイル嬢に注目してましたのよ。燃え上がるお二人の愛が、いつ私に婚約破棄を宣言するか。それはもう、一挙手一投足を見逃さないように」
「そ、そうか私たちの愛が………」
まんざらでもない様子のハルクに
「ええ、学園の皆がお二人の愛の成就を願ってましたの」
と、優しく微笑む。
「ですから、アデイル様が教科書をビリビリ破ったり、噴水に飛び込んで私に突き飛ばされたとハルク様に泣きついた時には、5枠のオッズは大きく下がりましたわ。皆、すぐにハルク様がアデイル様を信じて、私に婚約破棄を言い渡して揉めるだろうと賭けましたので」
アデイルの顔色が青くなる。
「でも、ハルク様は私のせいだと決めつけなかったですわね。まあ、その時期は私は学園にいなかったからですけど」
周りから、「それでかぁ!」「しまった。情報不足だった!」などの声が聞こえる。
「そして、お二人が宿にしけこむ、いえ、御一緒に御休憩されたので、4枠に人気が集中しましたの。既成事実を作るという事は、きっと愛を貫くはずだと」
今度はハルクの顔が青くなる。
「でも、それからもお二人は何度も御休憩なさるのに、一向に婚約破棄を言い出しませんでしたのね」
「それは……」
「もしかしたらアデイル様を弄んだのではないかと心配しましたのよ」
「………」
周りの目も冷たくなる。
「でも、卒業パーティーで婚約破棄をなさった! 愛を貫きましたのね」
「そ、そうだ」
「おめでとうございます。お幸せに。この場合の慰謝料は殿下の個人資産から頂く事になるのですが、殿下がアデイル様に散財なさったのでとても足りませんの。なのでトトカルチョの売り上げをいただきますわね。これで双方円満に納得してお別れです」
ジャクリーヌが去ろうとすると、慌ててハルクが引き留めた。
「ま、待て!」
「何でしょうか」
自分で引き留めたくせに、ハルクはなかなか言い出さない。ジャクリーヌがイラッとした頃に、
「そ……その、婚約破棄してもいいのか? 私に捨てられてもいいのか? 側妃にしてやってもいいのだが」
と、言った。
はあ、なかなか婚約破棄しないと思ったら、アデイルを王妃、私を側妃にキープする事に決めたわけだ、とジャクリーヌの腹の中は煮えくりまくっているけど笑顔で言い返す。
「あら、側妃だなんて御冗談を。次の国王になられるのは、第二王子ですわよ。このトトカルチョは、ハルク殿下が皆の最後の思い出になるよう企画されましたの」
「さ、最後……?」
すっかり顔色をなくしたハルクが問いかける。
「はい。国王陛下も、ハルクは田舎に飛ばすから好きにして問題ないとおっしゃって。卒業した皆様は、これからカジノに出入りする事もあるでしょう。その練習も兼ねてますのよ」
「田舎ぁ?!」
アデイルが大声を上げる。
「それに私、学園を休んでいる時に次の縁談の相手とお会いしてきましたわ。どうぞご心配なく」
呆然としている二人にジャクリーヌが背を向けて去って行く。
「本当、6枠にならなくて良かったですわ……」
という呟きに気づいた者はいなかった。
これはトトカルチョじゃなくて競馬だ!、と思った人が多いと思います。「トトカルチョ』って響きが可愛いから使いたかっただけなの。




