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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。  作者: 逆立ちハムスター


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6/8

深夜残業と清浄の守り手?

「……寝すぎた。完全に、体内時計が狂ってる」


深夜二時。静まり返った公爵邸の自室(という名の豪華な猫用ルーム)で、私はパッチリと目を開けた。

昼間にカトリーナと泥パックエステなんて満喫したせいだ。お肌(毛並み)はツヤツヤだけど、脳はギンギンに冴え渡っている。

トイレ、トイレ。

しかし、私の体内で生成されるのは魔法石という名の宝石だった。ドワーフのオーパーツの燃料になるとかならないとか。それにしても、この『エリエールフ』のエルフの森の天然魔水100%で作られた「お尻拭き(魔法消し、素肌に届くものだから優しい成分配合)」が堪らないのよね。


私は出した物を出したあと、小腹を癒やすため、こっそりと部屋を抜け出した。

ふかふかの絨毯を肉球で踏み締めながら廊下を歩いていると、一箇所だけ明かりが漏れている部屋があった。レオヴィルの執務室だ。


(……まだ起きてるの? あのバカイケメン)


隙間から覗くと、そこには山積みの書類に囲まれ、羽根ペンを握ったまま突っ伏して眠るレオヴィルの姿があった。

月の光に照らされた寝顔は、まさに「眠れる森の美男子」。だが、その下にある書類の山は、前世の私を死に追いやった「あの忌々しい地層」と同じ匂いがした。


椅子に上がり、目を凝らす。


(あーあ……。予算承認に、領地の陳情、騎士団の備品発注……。この承認フロー、非効率すぎない? これ、こっちの案件とまとめれば一発で済むのに……)


気づけば、私の「社畜魂」がうずき出していた。

私は机に飛び乗ると、肉球を器用に使い、バラバラだった書類を重要度順の仕分けを始めた。


(これは『至急』、これは『後回し』……。よし、こっちは……)


なんだか、うっすら私の肉球印が付いているような……。まあ、いいわ。眠れなくてももう、休んでおこう。明日もきっと騒がしいし。重要書類を最後に終えた。


「……にゃふ。これで明日、あいつの仕事が三時間は早く終わるはずよ」


少しだけ、拾ってもらった恩返しができた気がして、私は満足げに自室へと戻った。


しかし翌朝。

屋敷中に響き渡るレオヴィルの絶叫で、私は叩き起こされた。


「あああああ! 神だ! 神の啓示が、我が執務机に降りたぞ!!」


(……うるさっ!)


寝ぼけ眼で執務室へ向かうと、そこには涙を流して書類を抱きしめるレオヴィルの姿があった。


「見てくれ、セドリック! この完璧な書類整理、そしてこの……この聖なる肉球印を! 私の天使が、夜通し私のために魔法を編んでくれたのだ! これは家宝だ! 今すぐ特注の額縁を発注しろ。王宮へはこれを持参して陛下に自慢してくる!」


(いや、仕事してって! 額縁に入れるな、提出しろ!)


セドリックが「閣下、その書類を出さないと予算が下りません!」と必死に止めているが、レオヴィルは「コピーを提出しろ。原本は私の寝室の壁に飾る!」と聞かない。……恩返しのつもりが、余計に仕事を増やしてしまった。


レオヴィルの興奮冷め止まぬ狂乱の朝、王宮から「速達」が届いた。

レオヴィルが特注していた、魔法工学の粋を集めた新兵器らしい。


「……さあ、私の天使。歩くのも億劫だろうと思ってね。君専用の『魔道ルンバス(清浄の守り手)』だ」


それは、直径五十センチほどの豪華なクッションが浮遊しているような不思議な魔道具だった。

レオヴィルは私をその上に乗せ、頬を擦り寄せてから「寂しいが、職務に行ってくるよ」と、少しは正気を取り戻しつつ、いつもの重すぎる別れを済ませて出勤していった。


残されたのは、私と、この「ハイテクメカ」だけ。


…………。


…………。


(……せっかくだから、少しは試してみようかしら。ルンバ? いや、ルンバス? これ、どうやって動くのかしら?)


私が少しだけ右側に重心を移すと、フワリと浮遊クッションが右へ動いた。


(わぁ……!? すごい、意のままに動く! 乗り心地最高じゃない! さすが公爵家、金に糸目をつけない便利グッズね!)


私は楽しくなり、廊下を優雅に滑走し始めた。

フフフ♪ これがあれば、もう歩く必要さえない。真のスローライフの完成よ!


(……ん? あら? ちょっと!? え!? 速くない!?)


クッションが私の魔力を過剰に吸収したのか、底部の魔石が「キィィィィィィン!」と嫌な高音を発し始めた。


(ちょっ、ちょっと! 止まって! 止まってーー!! ブ、ブレーキは……どこ!?)


「にゃあああああああ(速すぎるーーー!!!!)」


一気に加速したルンバスは、もはや制御不能の特攻兵器と化していた。

メーターが時速四十キロ、六十キロ……そして、ついに百キロを突破!


「ひっ!? なにか白い閃光が通り過ぎた!?」


廊下を掃除していたリネットの横を、私はマッハの速度で駆け抜けた。

視界が流れる。風圧で私の自慢の毛並みがオールバックになり、顔がひんよひに歪む。


(止まらなぁぁ……! か、壁! 前方に壁がああああああ!!)


あっ……。


残業の走馬灯。


ドンッ!!!!


凄まじい衝撃音と共に、私は吹き飛び、廊下の突き当たりの壁に頭部を激突させた。

魔道ルンバスは四散し、私はそのまま重力に従って地面へ。


「…………(無)」


仰向けにひっくり返り、四肢を投げ出した「ヘソ天」状態。

目は完全に白目を剥き、口の端からは魂のようなものが半分漏れ出しているのを感じる。

まさに無様な姿。


そこへ、騒ぎを聞きつけたリネットが駆け寄ってきた。


「……え、嘘でしょう!? 公爵様の天使様が、廊下で干からびた干物みたいになってる!? これももしかして、神の御告げ? ディナーの一品に干物を加えるべきと」


(……わ、私の……スローライフ……どこ行った……)


私は意識を失う寸前、壊れた魔道具から漏れる「ピー……」という虚しい音を聞きながら、二度とハイテクメカには乗らないと誓ったのだった。

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