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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。  作者: 逆立ちハムスター


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目覚めたら肉球、目の前には顔面国宝

「……あー、猫になりたい」


それが、私が人生(仮)で最後に残した言葉だった。

場所は深夜二時のオフィス。デスクには栄養ドリンクの空き瓶が三本。積み上がった資料はもはや地層のよう。連勤二十日目を迎えた私の意識は、キーボードの『Enter』キーを叩いた瞬間に、ぷつりと途絶えた。


次に意識が浮上したとき、私は妙な違和感を覚えた。

まず、体が軽い。肩こりがない。腰の重みがない。それどころか、視界が異様に低い。

……あと、なんかお尻のあたりが、さっきから「ゆらゆら」と勝手に動いている気がする。


「……にゃふ?」


自分の口から漏れたのは、およそ二十代半ば(数字のドレス)の女性が発していい音ではなかった。

マシュマロに鈴を詰め込んで転がしたような、鼓膜に優しい、あまりにも可憐な高音。

私は恐る恐る、自分の目の前にある「手」を見た。


「にゃ、にゃあああああああ!?」


そこにあったのは、白くて、ふわふわで、ピンク色の肉球がぷにっとついた、紛れもない「前足」だった。

慌てて近くの泉まで走り(四足歩行、意外と難しい!)、水面に映る自分を確認する。


そこにいたのは、宝石のような金色の瞳、雪のように真っ白な毛並み、そして額に小さな星の紋章を持つ、ぬいぐるみよりも可愛い子猫――もとい、魔獣だった。


(……転生。これ、異世界転生ってやつじゃない!?)


しかも、ただの猫じゃない。前世でかじったライトノベルの知識が告げている。この神々しさは、間違いなく希少種だ。

よし、勝った。人生の勝ち組……いや、猫生にゃんせいの勝ち組よ!

もう朝員外の会議も、理不尽な上司の小言も、お局様の嫌味もない。私は今日から、この可愛い外見を武器に、誰かお金持ちに拾われて一生寝て過ごすのだ!


「にゃ〜ん(計画通り)!」


私は勝利のポーズのつもりでゴロンと仰向けになった。だが、現実は非情である。

可愛い子猫の体は、燃費が悪かった。

ぐう、と情けない音が腹から鳴る。モフなお腹を擦る。ブラック企業時代、空腹をコーヒーで誤魔化し続けた報いだろうか。力が抜けて、そのまま視界がチカチカし始める。


(嘘でしょ……。転生して五分で餓死? 冗談じゃないわよ……誰か、誰でもいいから……にゃ〜る、にゃ〜るを……)


薄れゆく意識の中、ザッ、ザッ、と草を踏みしめる音が聞こえた。

誰かが近づいてくる。どうか、優しいおじいさんか、親切な農家の娘さんでありますように。


「……これは。こんな場所に、ステラ・キャットの幼体か?」


聞こえてきたのは、冷たくも心地よい、低音の美声だった。

私は重い瞼をこじ開けた。

そこにいたのは、銀色の髪をなびかせ、軍服のようなカッチリとした騎士服に身を包んだ一人の青年だった。


(……は?)


絶句した。

整いすぎた眉、鋭くも知性を感じさせる切れ長の瞳、スッと通った鼻筋。

前世で見てきたどのアイドルや俳優よりも、目の前の男は輝いていた。まさに「顔面国宝」。世界遺産に登録すべき美形だ。


「衰弱しているのか。可哀想に……ひどく震えているな」


青年――レオヴィルが、私をそっと両手で掬い上げた。

その瞬間、彼から漂ってきたのは、清涼感のあるサンダルウッドと、微かな魔力のラズベリーの香り(よくわからないけど、鼻の才能効いてるみたい)


(ひゃっ!? 近い、顔が近い! 待って、美形すぎて直視できない!)


私が心の中でバタバタと悶絶していると、レオヴィルの表情に異変が起きた。

それまで鉄面皮のようだった彼の顔が、みるみるうちに蕩け、頬が微かに赤らんでいく。


「……ああ。なんだ、この感触は。シルクよりも滑らかで、雲よりも柔らかい。……信じられない。この世に、これほど愛らしい存在がいたのか?」


彼は私の腹部に顔を埋め、深々と息を吸い込んだ。


(ちょっ!? 何してんのこのイケメン!? 初対面の女子(猫)に対して「吸う」って、変態なの!? 騎士団の教育どうなってんのよ!)


「……決めた。君を、私の命に代えても守り抜こう。我が公爵家のすべてを賭して、君を世界一幸せな猫にしてみせる」


(重い! 決意が重すぎるわよ! 命も公爵家も賭けなくていいから、とりあえずご飯ちょうだい!)


レオヴィルは私を宝物のように胸に抱き寄せた。

彼の胸筋は驚くほど厚く、そして温かい。トクトクと刻まれる鼓動が、彼もまた興奮していることを物語っている。


「安心しなさい。もう何も怖くない。今日から私が君の飼い主……いや、下僕だ」


(公爵様が下僕宣言しちゃったよ……。まあいいわ、この顔面なら鑑賞用としても最高だし、何より生活の保障は確実そうね)


私は彼の腕の中で、小さく「にゃん」と鳴いた。

これが、私と「重すぎる愛を持つ美形テイマー」の、スローライフ(?)の始まりだった。


意識が完全に途切れる寸前、レオヴィルが私の耳元で囁いた。

「……帰ったら、最高級のヤギミルクと、竜の肉のパテを用意させよう。ブラッシングは私が一晩中してあげるからね……」


(一晩中は勘弁してほしいかな!)


そうツッコミを入れながら、私は心地よい揺れに身を任せ、今度こそ深い眠りに落ちていった。

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