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幼馴染の背中は語ってる。私じゃなくて美人の姉を見ていると。でも本当の理由を聞いた時、全てが私のためだった

作者: 来留美

楽しくお読みいただけましたら幸いです。

「まひる、行くよ」

「お姉ちゃん、待ってよ」


 私はいつも、まひろお姉ちゃんの後ろをついていく。

 お姉ちゃんはとても優しいし、美人さんなの。


 お姉ちゃんと姉妹なのに、周りからは似てないねって言われるの。

 私は真実だと分かっているから、怒ったりはしない。


 でも、お姉ちゃんは違う。

 怒りながら言った人を睨み付ける。

 そして最後に言うの。


「ずっと近くにいる人が言うのよ? 私より可愛いのは、まひるだって」


 お姉ちゃんは私の方が可愛いと言うけれど、それは私が妹だから。

 お姉ちゃんは妹の私を溺愛してるのよ。


「それは分かったから、行くぞ」


 私とお姉ちゃんの会話を聞いた後、私達の前を歩いている男子が言う。

 この男子が私達の幼馴染みで私と同級生の名前は、はるき。


 はるきは毎回、お姉ちゃんの言葉を聞いて呆れながら言う。

 前を歩いているから顔は見えないけれど、声で分かる。


「はるき、たまにはこっちを向いて言ってみなさいよ。昔は素直で可愛かったのに」


 お姉ちゃんがはるきの隣に立ち、頭を撫でる。

 はるきは、髪の毛が乱れると言いながらも嫌そうには聞こえない。


 表情が見えないから、声で判断するしかできないが、はるきはお姉ちゃんが好きだと思う。

 そして私は、はるきが好き。


 お姉ちゃんとはるきの後ろ姿を見ながら、私はいつもお似合いだなと思ってしまう。

 だって、お姉ちゃんはスタイルが良く身長も高いが、そんなお姉ちゃんよりも身長が高くスタイルの良いはるきが隣にいると、通行人が二人を見るの。


 私と同じように思っているのよ。

 お似合いだなって。

 その二人の後ろを歩く私ってなんなんだろう?


 周りからは私なんて見えていないのかもしれない。

 前を歩く二人が眩しすぎて。


「あっ、そうだ。明日から一週間だけ学校に早く行くから、はるきとまひるの二人で登校してね」


 前を歩くお姉ちゃんが振り向いて私に言った。

 私とはるきの二人で?

 はるきは嫌がるでしょう?


「えっ、それなら私もお姉ちゃんと早く学校に行くよ」

「まひる。そんなこと言わないで、これは予行練習だと思いなさいよ」

「予行練習?」

「そうよ。私が卒業したら、まひるとはるきの二人で学校に行くのよ?」

「そうか。お姉ちゃんは、いなくなっちゃうんだね」


 お姉ちゃんは、高校三年生だからもうすぐ卒業しちゃう。

 小学校や中学校を卒業した時は、学校が近くだったから、お姉ちゃんと一緒に行けた。


 でも、大学生になるお姉ちゃんとは一緒に登校できない。

 お姉ちゃんがいなくなれば、はるきと登校するなんてなくなるんだと思う。


 だって、私なんかと一緒に登校するなんて無意味だから。

 お姉ちゃんがいるからこそ、一緒に登校できていたんだから。


「はるき、まひるをお願いよ」

「うん」


 前を歩く二人がどんな顔をして言ったのか分からないけど、はるきは好きな人に頼まれたから仕方なく承諾したんだと思う。


 私の気持ちなんて関係なく、お姉ちゃんは私のことをはるきに任せた。

 私は、もう子供なんかじゃないのに。


「私、一人でも登校できるよ?」

「まひる? 何を言ってるの?」


 お姉ちゃんは驚きながら振り向く。


「私、はるきがいなくても大丈夫だよ?」

「まひる、大丈夫とか大丈夫じゃないとか、そういう問題じゃないのよ」


 お姉ちゃんは私の隣に来てから言うけれど、そんなに心配しなくても大丈夫なんだよ。


「まひるが、そう言うなら無理に一緒に行かなくてもいいんじゃない?」


 前を歩くはるきが淡々と言う。

 何の感情も読み取れない声で。


「何、言ってんのよ。私の可愛いまひるを一人にする気なの?」


 お姉ちゃんは、はるきの隣に戻る。


「だって、まひるが決めることだろう?」

「あんたは、それでいいの?」

「俺は、まひるが良いならそれで良いんだよ」

「バカじゃん」


 お姉ちゃんは、怒ってしまって、はるきよりも前を歩く。

 そんなお姉ちゃんを見つめるはるきを、見つめる私。


 もう少し素直になれたらいいのに。

 もう少し距離が近くなればいいのに。

 そうすれば、何か変わったかな?




 次の日お姉ちゃんは、学校へ行く前に私に、はるきと登校しなさいよと言って出ていった。


 どうしよう。

 一緒に行きたいけど、気まずい。

 いつも通りなら、前後で歩く私達は一緒に行く意味があるの?


 家を出ると、隣のはるきの家の前にはるきが立っていた。

 私のために待っていてくれたの?

 それとも、お姉ちゃんに言われたから仕方なくなの?


「おはよう」

「おはよう」


 私が挨拶をするとスマホに視線を向けたまま、はるきが挨拶を返す。

 そして私達は歩き出す。


 私が前ではるきが後ろ。


 見られているような気がして緊張してしまう。

 でもすぐに、見られているなんて思わなくなった。


 だって、話し掛けるために後ろを振り向くと、はるきはイヤホンをしていたから。

 私と会話もしたくないんだって分かったから。


 私が振り向くと、右耳のイヤホンを取って、はるきは私の言葉を待つ。

 はるきの顔を見ると何も言えなくなって、前を向いて赤くなった顔を隠した。


 はるきは、そんな私に話し掛けることもなく、前後で私達は歩く。

 これって、一緒に登校してるの?






「お姉ちゃん。はるきと一緒に登校しなきゃいけない?」


 私はその日の夜に泣きそうになりながら、お姉ちゃんに言った。


「どうしたの?」

「だって、はるきが何も話さないし、イヤホンで音楽聴いてたから会話もできなかったの」

「何よそれ? ちょっと行ってくるわ」


 お姉ちゃんは、そう言って家を出ていった。

 はるきの所へ行ったんだと思う。


 お姉ちゃんがはるきに言ったら、仕方なく会話をしてくれるかもしれないけれど、そんなの私は嬉しくないよ。


 私は自然に会話をしたいだけなのに。





「おはよう」

「おはよう」


 今日もはるきは自分の家の前で私を待っていた。

 でも今日は、スマホの画面なんて見ていない。

 ちゃんと私を見て言った。


 今日は私の隣にいてくれる。

 イヤホンなんてつけていない。

 いつもよりも近い距離にドキドキしてしまう。


「お姉ちゃんに言われたから、隣にいるのよね?」

「まひろは関係ないよ」

「でも昨日、言われたんじゃないの?」

「言われたけど、まひろは関係ないんだ。俺の問題だから」

「そうなんだ。今日は音楽は聴かないの?」

「まひるがいるから、聴かない」


 はるきと自然に話せている。

 昔はこれが当たり前だった。

 いつから、私達って話さなくなったんだろう?


「音楽は何を聴いてたの?」

「まひろが教えてくれた最近、話題の歌い手さんの歌だよ」

「あっ、それって、学生に大人気の歌い手さんだよね? 私も好きだよ」

「俺も好きになったんだ」


 それはお姉ちゃんが教えたからだよね?

 好きな人の好きなモノは好きになっちゃうよね?

 私がお姉ちゃんに教えたのに。


「一緒に聴く?」


 はるきがイヤホンを出して言う。

 私が頷くとワイヤレスイヤホンの左耳用を貸してくれた。


 耳につけると、音楽が流れ出す。

 好きな音楽だから、意識が耳に集中する。

 二人で歩きながら音楽を聴く。


 するといきなり、音楽が小さくなる。

 私は隣にいるはるきを見上げる。

 音が小さくなったことを伝えたかった。


 はるきは、私の顔を見てから、自分がつけているイヤホンを私の空いている右耳につける。


 すると音楽は大きくなって、車の走る音や登校している学生達の声、犬が吠える鳴き声も聞こえない。


 私がはるきを見上げると、はるきの顔は真っ赤で、何か言っているのか口が動いている。


 私がイヤホンを外そうと手を伸ばすと、はるきが私の手を持ち、手を繋いではるきのコートのポケットへとおさまった。


 私は驚きすぎて、固まってしまう。


 そんな私を見て、はるきは私に分かるように口パクをする。

 はるきが何を言っているのか分かる。

 私の耳から聴こえる歌のおかげでもある。


 この歌は、告白を応援する歌だから。

 学生に人気なのは、この歌を聴かせながら告白する人達が増えたから。


 この歌は、告白ができない学生達に勇気をくれたから。

 恋をする学生達にはピッタリの歌だから。


「ま・ひ・る・好・き」


 私ははるきの口パクを声に出して言った。

 はるきは頷いて顔を赤くし、口元を隠している。


 私は驚きすぎて、イヤホンを取る。

 そしてはるきに訊く。


「まひる好き、、、なの?」

「うん。そう。まひる好き」

「本当? だって、お姉ちゃんが好きじゃないの?」

「気付いてなかったんだ?」

「何が?」

「まひろがいつも言ってたじゃん」

「いつも?」

「ずっと近くにいる人が言うんだって、まひろより可愛いのは、まひるだって」

「ずっと近くにいる人ってお姉ちゃんのことでしょう?」

「違うよ。俺のこと」


 それって、お姉ちゃんは、はるきの気持ちを知っていたってこと?


「そんな顔をするなよ」

「えっ」


 はるきはギュッと手を繋ぐ力を強めた。


「まひろは最初から気付いていたんだよ。まひるには言うなって俺が口止めしてたんだよ。それなのにアイツが遠回しに言っていたのに、気付いていなかったんだな」

「そうだったんだ。私だけ知らなかったんだ」

「だから、そんな顔をするなよ」


 はるきがうつむいていた私の顔を覗くように見てきた。

 はるきが悲しそうにしていたから、私もそんな顔をしていたんだと思う。


「これからは、まひろが知らないことをたくさん作ればいいだろう?」

「でも、、、」

「何をすれば安心するんだ? 毎日、好きって伝えればいいのか? 毎日、まひろよりまひるの方が可愛いって言えばいいのか?」

「そんなの分かんない」

「じゃあ、まひるが安心するまで言うし、伝えるよ」

「えっ」


 私が顔をあげると、顔を真っ赤にしたはるきが笑っていた。


「俺はまひるが好き。まひろよりも可愛くて、まひるを悲しませる奴等の前に立って守りたいほど好きなんだ」


 私まで顔が赤くなる。


「いつも私の前にいたのって、私を守っていたの?」

「そう。それと、赤くなる顔を隠してた」

「そうだったんだ。でもこれからは、私の隣にいて。はるきの赤くなった顔も、いろんな表情も見たいの。好きだから」


 はるきは、うんと答えるように、ポケットの中で繋いでいた手を恋人繋ぎにしてギュッと握った。

 私達のこれからは、お姉ちゃんには内緒。


 私達二人の秘密。




「ねぇ、どうして二人で登校する時は後ろにいたの?」

「だって、まひるを見ながら歩けるじゃん」

「えっ、それだと私を守れないよ?」

「これは本当の真実なんだけど、守るというよりは、まひるの顔が見たかったんだ。前を歩いてまひろと話せば横を向くから視界の端にまひるが入ってくるんだよ」


 嬉しくなった。

 美人なお姉ちゃんよりも私を見たいって言ってくれるなんて。


「ありがとう。私を見ていてくれて」

「うん。初めて会った時からまひるしか見てないよ」


 はるきは私に伝えてくれる。

 私だけだと安心させてくれる。

 私も伝えなきゃ。


「私も初めて会った時からはるきしか見てないよ」

お読みいただき、誠にありがとうございます。

楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。

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