ファニー・オーシャン2043 パナマ沖
先行して攻撃を開始した潜水艦戦隊だが、活動は意外に低調だった。問題は中立国船舶が多すぎるのだった。ほとんどアメリカ寄りだろうと思うが攻撃するわけにもいかない。
到着して三日目にようやくアメリカ船籍の貨物船を発見。電池魚雷で攻撃。見事に命中、これを撃破せしめる。沈んだはずと推測するが沈むのを確認するまで潜望鏡を上げているのは馬鹿のやることだ。
その後警戒が厳しくなる。対潜艦艇などの警戒と船の国籍確認。それだけで疲れてしまう。
それに水中活動範囲が広がったと言っても、所詮潜水艦。夜間に浮上して充電と空気を入れ換える必要がある。よって夜明け前から潜るが潜ったままでは有利な位置取りも難しい。
そろそろ引き揚げるか、とイ八十一の艦長が考えている頃に大物がやってきた。アメリカ海軍の一万トン級巡洋艦が潜望鏡から見える。もちろんお供の駆逐艦もいる。
「潜望鏡下げ。巡洋艦だ。先任。海図確認。本艦の東側にいるのはイ八十四だったな」
「ハッ、そのはずですが…はい。イ八十四です」
「距離と角度が悪い。現状では追いつけないし、酸素魚雷でも届かん」
「そうですね。電探のある今、夜間高速航行で回り込むという運用は出来ません」
「諦めるか」
「残念です。イ八十四はどうするのでしょうか」
「位置が良ければというところか。本艦と同じだ」
「良い位置にいるといいのですが」
「こればかりはな」
その頃イ八十四は
「いい獲物が見えるが。先任見てみろ」
「ハッ、替わります」
「いけると思うか。その前に潜望鏡を下げよう」
「ハッ、潜望鏡下げ」
「潜望鏡の倍率がこれで、艦の大きさがこれで、方位がこれですか」
「そうだ」
「今から魚雷の発射準備すると追い撃ちになりますし、距離もあります」
「酸素魚雷なら届くが角度がな」
「八千はあります。角度からして射程ギリギリでしょう」
「魚雷が勿体ない。やはり止めだ」
「艦長。今日は十九日です」
「十九日?それがどうかしたか先任???」
「艦長…」
「おっ、そうだ。アレだ」
「撃ちますか」
「撃ってしまおう。水雷長、酸素魚雷を詰めてあったな。六本行くぞ。射角は一番二番は無し、他各一度ずつ」
「方位盤で進路出せ」
「方位盤で進路出します」
「発射管室。発射準備。第二雷速。一番二番射角無し。三番四番射角一度五番六番射角二度」
『発射管室了解。復唱。第二雷速。一番二番射角無し。三番四番射角一度五番六番射角二度』
「面舵。方位百六十八。速力このまま」
「舵戻せ」
「当て舵だ。ちょい取り舵」
「進路乗りました」
「潜望鏡上げ」
「よし進路乗った。全管発射。潜望鏡下げ」
「全管発射」
「潜望鏡下げ」
「深度五十まで潜るぞ。下げ舵五度。速力このまま」
「さて、先任。空気はあと十六時間は持つな」
「電池も同じ程度です」
「奴ら諦めてくれればいいが」
「パナマ沖です。しつこいと考えますな」
「時間」
「どうだろうな」
肩をすくめる先任だった。
「命中!命中です!一本命中」
聴音の報告があった。沸き返る艦内。
「静まれ。これから来るぞ。各員、衝撃と浸水に注意」
イ八十四は激しい爆雷攻撃を受けた。しかし、乗組員は衝撃で振り回せれたが船体はびくともせずに深深度潜行(深度二百)で逃げ切ることが出来た。機関長の褌と木片と多めに重油をバラまいたのが良かったのかもしれない。
機関長の褌と木片と多めに重油は二十日になった時点で回復した。褌は新品だった。乗組員全員がこれからは十九日に汚れ物捨てるか?と考えたのも無理はない。
作戦期間中に潜水艦戦隊が上げた戦果は、撃沈が商船八隻と駆逐艦一隻で撃破が商船二隻と通行量の多い海域にしては少ないが、中立国船籍船が多いことを考えれば十分とも言える。何より本来の目的である、敵戦力の誘因という役目は果たした。
後日、帰還後の潜水艦戦隊艦長達の会話では
「大分喰らったようだが」
「爆雷の直撃は沈んだと思った」
「平気なのか」
「船は平気だが、俺たちの心が持たん。吹き飛ばされるし、船は横転しそうになるし」
「大変だったんだな」
「俺の船だけなのか」
「「「そうだな」」」
「酷いと思わないのか」
「任務ご苦労」
「生還おめでとう」
また深度二百でも船体からの軋み音や漏水も無く平気なことがわかった。圧壊深度はどのくらいなのだろうか。
潜水艦戦隊が誘引した戦力は、インディペンデンス級小型空母三隻と巡洋艦二隻に駆逐艦八隻であったが、それらがシアトル沖に向かわないだけでも百機減らせたと思えば上等である。
そして、シアトル沖では西に向かってのんびり逃走する嶺部隊を追うアメリカ海軍機動部隊の間で激しい戦闘が起きた。
のんびり逃走≒待ち構えだが、嶺部隊という巨大な美味しすぎる餌に食らいついてきたのだ。
なにしろ、わざと四発の偵察機を撃墜せずに空母六隻という陣容を確認させている。しかも、慌てて迎撃したように見せて7.7ミリ機銃だけ撃ち込むという小細工までしている。
結果は嶺部隊の完勝で、撃沈は空母四隻、戦艦三隻、巡洋艦三隻、駆逐艦六隻を数えた。撃破したのは空母二隻、巡洋艦二隻、駆逐艦三隻であった。敵機の撃墜も四百機あまりを数える。これはいいとこ半分だと思われる。
敵機動部隊に突進した比叡・霧島他と水上砲戦が発生し、まさかの最古参戦艦でサウスダコタ級新鋭戦艦二隻を葬っている。敵戦艦二隻と巡洋艦二隻と駆逐艦三隻は水上砲戦で沈んだ。
嶺部隊の損害は、増設した機銃や電探と戦死傷者四十一名のみだった。
長官がほどほどで良いと切り上げなければ敵艦隊全滅もあり得たという。
本当にインチキな存在である。
次回更新は週末の土日です。




