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´ の異常性と護衛失敗事件

本日三話目です。

 おかしいのである。何がおかしいって。人間も含めて全部。

  ´ は見た目、こちらの世界の人間と同じである。機材も同じである。見た目は。


 その異常性は北太平洋で出会った頃から指摘されていた。合同で真珠湾に向かったときに南雲艦隊’が速く回転数を落としてこちらの艦隊に航海速力を合わせたのだ。真珠湾攻撃編隊も機体の速力がこちらの機体と編隊を組めないほど違った。

 同じスロットルの開け具合で二十ノットも違う。搭乗員は何か機体が軽いと思っていたという。整備員は艦内で明らかに滑油が違わないかと思うほどに性状の違いを意識したという。しかし容器は同じであり自分たちでも搬入を確認したのだ。同じ物だ。そう信じて使ったという。揮発油も色も臭いも同じだが非常に発動機の掛かりが良かたっと。

 発動機を機体から外しエンジンベンチで測定したところ、


栄一二型    当地        栄一二型 ´

離昇出力    九百四十馬力    一千三百八十馬力

公称出力    九百四十馬力    一千三百八十馬力

 全開高度   四千二百メートル

  

金星四四型             金星四四型 ´

離昇出力    一千八十馬力    一千五百三十馬力

公称出力    一千七十五馬力   一千五百二十馬力

 全開高度   二千メートル   


 とんでもない差が出ていた。揮発油と滑油は双方とも元の物を使用した。

  ´ 発動機に揮発油と滑油をこちらの物を使用すると二百馬力程度低下した。

 逆に南雲艦隊’の揮発油と滑油に点火栓などを使用すると百馬力以上の向上があった。

 搭載機の性能は


零戦二一型    当地        零戦二一型 ´

最高速度     二百八十八ノット  三二七ノット

上昇力      七分二七秒     六分〇五秒

六千メートルまで      

航続距離     一千海里      一千二百海里

航続距離(過荷) 一千四百八十海里  一千七百海里(推定)   

急降下制限速度  三百四十ノット   四百ノット以上可能


 九七艦攻、九九艦爆、零式三座水偵、九五式水偵も一様に高性能化している。


 また、真珠湾上空で戦闘機に迎撃されたとき、敵機の機銃弾が貫通しないのだ。あのペラペラな機体で。風防に命中しても弾いたようだという。

 二十ミリ弾の威力も格別で一発で敵戦闘機を撃墜出来たという。機体に大穴が開くは、主翼がへし折れるわで。

 人間は人間で、開いている風防部分に撃ち込まれた機銃弾で負傷するも回復が異常に早い。しかも跡が残らない。


 艦艇も陽炎級全艦四十ノット。阿武隈三十六ノット。利根三十八ノット。比叡・霧島三十四ノット。赤城三十四ノット。加賀三十二ノット。飛龍・蒼龍三十八ノット。翔鶴・瑞鶴三十九ノット。

 韋駄天艦隊の出現である。補給艦も各艦二ノット増速している。潜水艦は水中全速時間が三倍くらいになった。


 明らかに違いがあり、当地海軍はどうやって扱いましょうかと悩んだ。

 しかし、最初に「働くから養ってくれ」と南雲孝一(旧南雲忠一 ´ )が頼み込んだのをいいことに、政府と協議し難民として扱うとした。



 問題はさらに出た。と言っても嬉しいような怖いような問題だ。

 機体の揮発油は減る。機銃弾も減る。爆弾は投下すれば当然無くなる。

 

 

 しか~し



 艦内の揮発油庫も重油タンクも弾薬庫も真珠湾攻撃の次の日には満タンになっていた。おかしいのである。怪談である。

 そうしたら、十の付く日に勝手に補充され弾薬は定数、燃料関連は満タンになるということがわかった。滑油も容器一杯になる。

 糧食庫や清水タンクも同じで十の付く日に単冠湾出撃時と同じ量まで増えている。さらに言えば艦内の備品全ても十の付く日に単冠湾出撃時と同じ量まで増えている。


 無限とも思える補充を誰がするのか。そして機体や人間を頑丈どころではない状態にしたのは誰か。

 当然、南雲艦隊 ’ をこの世界に連れてきた誰かだろう。一部では天佑ともいうがそんなに都合の良い天佑があってたまるか。と言うのが大勢の見方だ。


 しかも、整備のためドック入りして蛎殻落としをしようと思ったら付いていないのである。


 信じられないのは全員だった。特に撃たれて負傷した奴は「俺は超人か」と巫山戯る始末。


 試しに、十日に空になるよう弾薬を運び出してみた。十日に弾薬庫内に定数まで積み上がっていた。無限弾薬庫である。しかも運び出した弾薬の性能は元の弾薬とかけ離れた性能を持っていた。

 こうなると無限の航続距離を持つ恐ろしい艦隊が出現したことになる。


 別の日には、外部から持ち込んだ品々がどうなるか試してみた。


 変わらなかった。


 どうも、燃料関係と弾薬と糧食や清水の他、あらゆる備品が前の世界での単冠湾出撃時状態に戻るだけでこの世界の物品は関係ないようである。しかも高性能になってだ。

 船底の蛎殻は全艦付いていなかった。何故か。


 そうなると当然のように、無限弾薬庫と無限揮発油庫と無限重油タンクの持ち主となった各艦は補給艦代わりに使われる事になる。出撃は制限され鬱憤がたまるので時々出撃を強要して出撃する。



 そんな中(インド洋作戦実行中)、トラック島へ向かっていた西東丸(極東丸 ´ )と南方丸(東邦丸 ´ )が、随伴する駆逐艦四隻という厳重な警戒態勢の中、雷撃を受けた。通常なら護衛無しの独航船である。いかに重要且つ大切に扱われていることか。

 西東丸と南方丸は横須賀の重油タンクへ補給し空になった三月七日に横須賀を出航。途中の洋上で十日に満タンになるという予定で航行していた。トラックで重油タンクに給油し、また戻ってくる途中で満タンになる予定の航海だった。

 命中は西東丸に二発。沈むかとも思われたが、平気であった。浸水も火災さえも発生していない。調査は後回しにして潜水艦を振り切るべく速力を上げトラックに向かった。

 トラック到着後、潜水夫を潜らすが凹んでもいない。船底塗料の剥げもない。という点検結果だった。信じられないことに船体も機体同様になっているらしい。


 この時、護衛の駆逐艦四隻が潜水艦を発見出来なかったことが問題とされる。発射地点は西東丸左舷四十度、距離二千と見られ、そこまで近づけたことと発射後も敵潜水艦の位置特定が出来なかった事、闇雲に爆雷をばらまいただけで有効な対潜戦闘になっていなかったことなど、様々なことが問題とされた。

 おそらく普通の商船であれば護衛失敗と始末書程度で済んだだろう。

 しかし超重要船であり、護衛失敗は許されなかった。


 調査が開始される。


 護衛艦艇は神風級駆逐艦で旧式化しているがまだまだ働ける船だ。

 艦長達の査問も同時に開始される。 


 そこで明らかになった問題は帝国海軍の構造的問題と軍人達の思考傾向である。

 つまり

 

 神風級駆逐艦は静粛性の高い近代的な潜水艦に対しては対潜能力が無いに等しく対空能力も皆無と言って良い状態であった。

 何から護衛するのだろうか。上層部が駆逐艦を付けておけば大丈夫といった簡単な思考しか持っていないことも明らかになった。もちろん全員ではないが多くの高官がこの程度の思考しか持っていない事が明らかになる。

 

 艦長達の査問で明らかになったのは。


「艦隊では襲撃訓練を盛んに行うが対潜戦闘訓練と対空戦闘訓練はおざなり程度で茶を濁す。対空戦闘はそもそも機銃二丁、それも七.七ミリの豆鉄砲でどうしろと。回避が精一杯である。そのような訓練と機材しかないのに失敗を本職達の責任とされるのは甚だ遺憾である。そして本職達が一方的に批難される謂われはない」


 と開き直る。護衛失敗の全責任を擦り付けられてはたまらないという思いだった。

 反抗的な艦長達や駆逐隊指令に手を焼いた査問委員が結論を出せないままでいると、やがてそれが噂となって拡がる。拡げるのは当然護衛失敗の全責任を取らされようとしている艦長達と駆逐隊指令と駆逐隊参謀達であった。

 噂は拡がり軍令部と連合艦隊上層部だけではなく艦隊全体や海軍省まで広く知れ渡っていく。これを問題にされたらたまらないと査問委員や主催の軍令部と連合艦隊上層部に批判の声が届き始める。

 折れた査問委員は艦長達に責は無しと結論づけ問題の沈静化を図る。姑息にも。


 突然、対潜対空能力欠如を突きつけられた海軍は慌てて海軍全体の対潜戦闘能力向上と対空戦闘能力向上に励むことになる。

 護衛艦艇の拡充にも励むようになった。


次回更新 十一月二日 〇五:〇〇

装備が神性能になるのは異世界転移で良く有ること。人間もおまえは人かは当たり前。知らんけど。

作戦失敗の査問は軍令部と連合艦隊の合同だったような気がします。


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