難民達 ´ 取れる。
三話投稿の二話目です。
潜水艦部隊と補給部隊も付随しています。
この世界にやってきた南雲艦隊’の悩みは目下のところ ´ であった。
「あ、いけね間違えた」
「貴様、何を間違っとる」
「ハッ、名前です。私の名前は士郎といい士が付きますが、時々下の線を長く書いてしまうことがあります」
「クックック。なんだ貴様、つちろうになったのか」
「ハッ、確かに土朗で……アレ?」
「なにかあったか」
「これは」
「どうしたか」
「 ´ が取れました」
「なんだとー!」
難民申請にやってきた南雲艦隊’の面々で間違えた奴がいる。事もあろうに自分の名前を。そうしたら ´ が取れるのだった。
大騒ぎになった。当然である。
そして皆自分の名前を変えてみた。そうしたら全員 ´ が取れたのである。
全員が名前を変えた。この機会にと格好良さそうな名前にした者もいる。「後の後悔先に立たず」と言われる輝かしかったり有名武将の名前まで。
難民申請に来たのは、まさしく難民だったからだ。
「こうなると船だな」
「そうですな。どうしますか」
「いい案は無いか」
「長官、銘板を外して艦名を変えてみてはどうでしょうか」
「機関長…良し、やってみるか」
「しかし、銘板を外した途端に何があるか」
補給艦から取りかかりたかったのだが「貴重な艦隊随伴が出来る補給艦は欲しい。何かあったら困る」と当地海軍から言われ、駆逐艦とした。
まずは、陽炎´から取りかかった。
陽炎´ は《 三国 》と名付け直した。艦籍番号も変更した。当地海軍から使っていない番号を割り当てられた。
新しく作った銘板を取り付ける。そうすると艦内各所にある陽炎という表示が無くなり、三国へと変わった。陽炎自体には試験航海でも異常は無く成功とみられた。
当然、残りの艦艇も全て艦名を変えた。
これにより ´ 問題は終わった。
問題は、絶対に何者かの介在があることだ。でなければ、’ が取れたり書き込まれた名前まで変わるわけがない。家族と会えなくなり自暴自棄となったりしていない。
しかし、この世界で生きるにはまず生き残ることだった。戦時中なので。追求は後でやろうと。
南雲艦隊 ´ 改名後 潜水艦名は略称
赤城 ´ 葛城
加賀 ´ 出羽
飛龍 ´ 雲龍
蒼龍 ´ 青龍
翔鶴 ´ 仙鶴
瑞鶴 ´ 白鶴
比叡 ´ 吉野
霧島 ´ 吾妻
利根 ´ 入間
筑摩 ´ 天野
阿武隈 ´ 小矢部
谷風 ´ 清川
浦風 ´ 張碓
浜風 ´ 武勇
磯風 ´ 里見
陽炎 ´ 三国
不知火 ´ 鞍掛
霞 ´ 薬師
霰 ´ 荒山
イ16 ´ イ76
イ18 ´ イ78
イ19 ´ イ79
イ20 ´ イ80
イ21 ´ イ81
イ22 ´ イ82
イ23 ´ イ83
イ24 ´ イ84
極東丸 ´ 西東丸
健洋丸 ´ 望洋丸
国洋丸 ´ 極洋丸
神国丸 ´ 神内丸
東邦丸 ´ 南方丸
東栄丸 ´ 豊根丸
日本丸 ´ 大本丸
この南雲艦隊 ’ が送り込まれただろう世界は南雲艦隊 ’ が知る地球とは微妙に違っていた。
地球という規模で見れば地形はほぼ同じだった。海軍としてみれば海図もほぼ同じだった。ただ、表記が違う。日本が大きいのだ。北方向と南東方向に。北方向はウラジオストック(南雲艦隊’)からカムチャッカ半島まで入っている。ウラジオストックは北怜と名が付いていた。南は南雲艦隊’が知るものと同じだった。南東方向は、マリアナ諸島(南雲艦隊’)が南東諸島となっている。北も南東も歴史的にヨーロッパ人が来る前という早い段階で日本領としていた。アラスカに渡らなかったのは国力が一杯一杯だったせいで余裕がなかったのである。その頃は戦国時代で外部に目を向ける余裕が少なかった。
日本は広いがほとんどが寒冷地で居住にも農業にも適さない地であった。地下資源は試算だがとんでもない量があるという。
台湾はなんということか明の天啓帝時代に多大な賄賂を送り公式に国家間の売買として買い取ったのだった。支払いは金銀だった。三代将軍徳川家光の時代であったが先代将軍秀忠の頃から事業に手を付けていて秀忠が主体となり実行した。賄賂は千島列島やカムチャッカで取れた金銀や海産物である。この当時既に日本の銀はスペインがもたらすメキシコの銀に押されていたがまだまだ有力であった。この金銀で明は一息つけたようだが、少し延命しただけだったようで清になるのは変わらなかった。
軍事的には大陸と半島に明治以降の日本がちょっかい(軍事的侵攻)を出してはいなかった。戦国時代に、対馬を巡る紛争で半島に踏み入れた事が有った程度である。日清戦争は有った。原因も結果も違うが。日露戦争もおかしな形になっているが有った。ヨーロッパ大戦(世界戦争)も有った。原因は同じだが途中経過と結果が大幅に違う。
これを知るに至って南雲艦隊 ’ の面々は月だけではなく全く違う世界だと実感した。
さまよい込んだ、というよりも元の世界から連れ去られたというのが南雲艦隊’の面々にとっての現実でしょう。
行政上の扱いは難民です。
´ ですから複製の可能性もありますが彼らに判断も付きません。もし、現物をここに移動させたなら元の世界は当然ボロ負けで、昭和十八年くらいに敗戦でしょうか。




