第一章 誰か夢だと言ってくれ!!!⑦
七
中田明人が、そんな水嶋シュウとしてモテモテ&チート人生を謳歌して、一学期は充実したまま過ぎ去っていった。
さすがに夏休み前ともなれば、数か月過ごした世界にも慣れ、水嶋シュウとしての振る舞いも多少板についてくる。それでなくても、何か困ったことがあると何故かは知らないが誰かしらが手助けしたり教えてくれたりして、世界そのものが明人にとって親切設計になっているようにすら錯覚できそうだった。
学業に生徒会。水嶋シュウの生活はそれだけでも雑事に忙殺され多忙を極めていたが、明人にはもう一つ大切なことがあることを忘れるわけにはいかなかった。
明人が忙しい日常の時間を割いてまで没頭したこと、それは、希望に満ちた未来を手に入れるべくゲーム世界を攻略するために、腐った姉との会話を思い出すことである。
何か少しでも思い出したことがあれば、スマホ(こちらの世界ではスマート・マジック・ホンを略してスマホというらしい。使い方はほぼ同じで電力の代わりに魔力を使うらしい。)を取出し、逐一メモすることを忘れなかった。
そのおかげもあって、だいぶ今後の未来に対する予測を立てることが可能になっていた。
明人が前の世界同様に便利なスマホにメモしたことは大きく三つの部類に分けられる。
まず、一つ目は、ゲームの主人公が学園に編入してくるのは夏休み明けの二学期からであること。
この情報のおかげで、明人は悪戯に未来に怯えて一学期を無駄にすることなく、今後の準備に充てることが出来た。
次に、いくつかのストーリー上のフラグを立てなければ、個別ルートに分岐しないこと。
個別フラグの細かいことはまだ思い出せていないが、要はフラグが立ちそうな気配を察したらフラグを意識的に折っていくことで、個別ルートへの分岐を回避できるのだ。
ただ、これは、まだ詳しく思い出せないことが多く、要注意の事柄でもある。
そして、最後に一番大切なことは、個別ルートに入る最終の決定となる事柄が存在するということだ。
それは、学園祭におけるパートナー選びという選択肢である。
個別のフラグ全てが完全に立っていて、尚且つ、数々の選択肢で一定以上の好感度を得ており、この学園祭のパートナーとして選択することで、ルートの分岐は完了する。
逆に言えば、どれだけ好感度が高くても、フラグの回収が完璧でも、学園祭のパートナーにならなければ、個別ルートに入ることなどあり得ないのだ。
この最重要ともいえる情報を覚えていたおかげで、明人は今後の見通しがかなり立ちやすかった。あんなどうでもいいと割り切って聞き流していた姉との会話であっても、必要な情報を覚えていた自分を褒めてあげたくなったくらいだ。
学園祭が無事に何事もなく終わり、個別ルートに分岐していなければ、少なくとも水嶋シュウルートで主人公と恋を育む必要はなくなる。そうなれば、チート能力のような優秀さを保持した人間として、自由に人生を謳歌することが可能なのではないかと明人は推測していた。
凡人であり、特に取り柄もなく、その他大勢のモブとして生きていた中田明人の人生と比べると、主人公とのBL関係というハードルの高い事柄を抜きにすれば、容姿端麗、成績優秀な水嶋シュウとしての人生は前途洋洋過ぎるような気さえし始めていた明人であった。
なので、人生イージーモードという自らの望む人生を手に入れるため、明人は今日も準備を怠らない。
まずは、二学期の始業式。
主人公の編入に向けて、作戦を立てなくては。
主人公の幸せを邪魔したいわけではないし、むしろ応援したいのだから、全く悪いことではないはずだ。
ただ、自分ではない誰かと幸せになってもらうために、明人は虎視眈々と権謀術策を練っていく。
心中で何かしらを企みながら一人ほくそ笑む明人の横顔は、まさしく水嶋シュウそのものであった。




