第一章 誰か夢だと言ってくれ!!!⑤
五
とりあえず用意されていた制服を着て、用意されていた荷物を持ち、明人は部屋の扉を開けた。
すると、扉を開けた先の廊下に、見たことのある姿を見つけた。
「おっ!シュウじゃねぇか。おはよー。」
「……ああ。」
どう挨拶を返したらいいか分からず、かといって何も返さないのも失礼かと思い、明人は小さな声を出した。
(……確か、ここは全寮制の学園だったな……。)
廊下に出て、見知った顔を見つけて、ようやくゲームの設定を思い出す。
腐った姉に見せられたイベントシーンは学生生活の基本である校舎内と、寮内のどちらかで起きていたモノが殆どであった。
「今日から三年だな?」
朝から爽やかに快活な声で挨拶をしてきたのは、ゲームの攻略キャラの一人でもある生徒会長の藤原スオウだ。
藤原スオウは水嶋シュウと同じ三年生で、他人とあまり親しく付き合わない水嶋シュウが唯一付き合っている相手だ。藤原スオウは分け隔てなくざっくばらんで快活な性格で、性格が悪いと言ってもまだ生ぬるい水嶋シュウ相手でも臆せず、心を開いて付き合ってくれる稀有な相手だった。かなりエネルギッシュな性質で無意識に周りを振り回すこともあるが、いいヤツではある。大雑把であまり細かいことにこだわらないので、そこが玉に瑕ではあるが、生徒会ではそんな藤原スオウのフォローを細かい水嶋シュウが行うことで、上手いことバランスが取れていた。
カリスマ性のある熱い会長と、権謀術策に長ける事務方の冷酷な副会長。
BL学園の生徒会は、生徒からの信頼も厚く、人気もあり、教師たちも一目置いている存在であった。
「何だよ?三年になっても相変わらずだな、シュウ。」
どう返していいものか悩んでいる間に、藤原スオウは勝手に会話を続けてくれる。
どうやら、水嶋シュウという男は合理性の塊であるために必要以上の言葉を発することはないらしい。なので、多少寡黙であっても、周りが勝手に判断してくれるようだ。
「そういえば、今日の始業式が終わった後は、生徒会室に集合だったよな?」
「……ああ。」
(……知らんけど。)
全く何もわからない明人だったが、会話の流れ上、一応頷いていた。
だが、どうやらそれは間違いではなかったらしく、藤原スオウはそのまま会話を続けていた。
二人で並んで廊下を進み終わり、寮の外へと歩き出す。
全く知らない場所に放り出された形の明人だったので、校舎へとそのまま道案内のように向かってくれる藤原スオウの存在は実に有り難かった。
それどころか校舎に向かう間も、藤原スオウは日常会話として様々なことを話してくれたが、そのどれもがこの世界の知識に乏しい明人にとっては有り難い情報だった。
明人は適当に言葉少なく相槌を打ちながら、少しでも知識を吸収することに専念していた。
まだ全く状況が理解できていないが、少なくともこの世界で水嶋シュウとして生きていかなくてはいけないのは決定事項らしい。
親切にたくさんの役立つ情報を次々と話してくれる藤原スオウ。
(……何か、チュートリアルみたいだな。)
校舎内までの道すがら、藤原スオウの話を聞きながら、明人は心の中で何となく漠然とそう感じていた。




