第六章 学園祭、その後……⑩
十
そして、鈴木ハルトは咽た。
案の定、咽た。たぶん、炭酸飲料を普段飲んでいるはずなのに、咽た。
「げほっ。げほ。」
しばらく咽て、情けない顔でペットボトルを見つめる鈴木ハルト。
「全然甘くないです……。」
「先程、お前はそう言っていたはずだが?」
自分で甘くないと言って明人に渡してきたくせに、コイツは何を今更言っているのだろうか……。明人は呆れてものも言えなかった。
それでも、鈴木ハルトには愚にもつかない言い分があるようで反論を試みる。
「で、でも……。」
だが、鈴木ハルトが反論する前に、別の人間から声が掛けられる。
それは、二人が部屋の隅で会話をしているのを温かく見守っている様子のスオウであった。
「おっ?お前たち、いつからそんなに仲良くなったんだ?」
「は?」
「え?」
スオウの言葉に二人分の正反対な声色の返事が重なる。
心底嫌そうな明人の声と、何故か嬉しそうな鈴木ハルトの声である。
鈴木ハルトの声音の色に驚いて、隣を見下ろす明人。
隣に座り、ペットボトルを持ったままの鈴木ハルトは、何故か照れていた。
(いや、これ、どういうこと?)
明人の視線に気づき、はにかむように笑う鈴木ハルト。
(えっ?これ?何か、懐いてないか?えっ?何で?)
想定外の鈴木ハルトの反応に、明人は理解が追い付かず慌てた。
だが、水嶋シュウの外見では明人が内心慌てているのは全く気付かれない。
鈴木ハルトは表面上冷淡にしか見えない明人を子犬が尻尾を振るような視線で見上げた。
「あ、あの、水嶋さん……。」
(えっ?何か懐いてないか?コイツ?何故に?)
全く予測不能な鈴木ハルトの反応に、明人は言葉も出ないほど驚いていた。それは、ほぼ恐慌状態であると言ってもいい。それでも、水嶋シュウの外見は余裕綽々にしか見えなかった。
(は?いったい、どのタイミングで懐き始めたんだ?コイツ。えっ?懐くような要素あったか?)
ドMの感覚が明人には全く分からない。
明人が理解不能の状況の連続に驚いて固まっているのをいいことに、鈴木ハルトは律儀に拳一つ分空けて座った隣から、甲斐甲斐しく尋ねてくる。
「何か食べますか?甘くない方がいいですか?水嶋さんは何食べたいですか?」
「………。」
(何も食べたくない。何も喉を通る気がしない。)
理解不能の事態に、急激に酷くなっていく頭痛。
明人のメンタルは既に崩壊寸前になっていた。食欲などあろうはずがない。
もう一瞬も我慢できなくて、明人はその場で立ちあがる。
「ど、どうしたんですか?水嶋さん。」
突然立ち上がった明人に、今度は鈴木ハルトが驚いた。
そんな鈴木ハルトには構わず、明人はその場の全員に聞こえるように一言宣言する。
「……帰る。」
そう宣言してすぐに歩き出した明人に、スオウも声を掛けてくる。
「おっ?どうした?シュウ。」
「頭痛がする。帰る。」
端的に告げて、そのまま多目的室を出ていくことにする明人。
スオウはそんな明人の背中に声を掛けてくる。
「大丈夫か?無理すんなよ?」
「ああ。」
明人は手を上げてスオウに返事をすると、そのまま一目散に逃げ去るように多目的室を後にしたのだった。




