第六章 学園祭、その後……⑦
七
鈴木ハルトはまだ来ていないが、強制参加の会ではないので、ゆるゆると慰労会は始まった。
スオウがテキトーに用意した飲み物が配られ、お菓子が草薙ジンと南野タケルによって広げられる。
明人は頭痛のする頭を支えるように肘をつき、部屋の隅に陣取って生徒会の仲間たちをぼーっと眺めていた。
みんなそれぞれが昨日の学園祭について会話をしているようで、それなりに賑やかな空気に室内は包まれていた。特にスオウとタケルは二人で騒いでいたが、明人はそれを傍から何となく眺めているだけだった。今日はもう、うるさいと怒鳴りつける気力も湧かないし、今日くらいは少し羽目を外してもいいんじゃないかと思っていたからだ。
ただ静かに置物のように泰然と隅に陣取っていても、水嶋シュウという男は騒ぎ立てるキャラではないため、無理に場の中心に引っ張って行こうというものはいない。
今日はそれがかなり有り難かった。
和やかな空気の中、ふとスオウが周りのメンバーに質問している声が聞こえて明人は意識を傾けた。
「そういや、フォークダンス、踊ったか?」
それは、明人も全員に隈なく聞き回りたい質問だった。
スオウにそう質問されて、メンバーはそれぞれ顔を見合わせた後、皆揃って首を振り始めた。
「いや。踊ってませんよ。あれって、参加しなきゃダメなんですか?」
そう言って肩を竦めたのは南野タケルだ。顔にありありと誰が野郎と手を繋いで踊るかと書いてある。
「私は作品の片づけの手筈を整えていたので。」
道明寺レイはそう言って首をゆるゆると振って否定した。柔らかく微笑んでいるが、見知らぬ人間の手を握りたくないと表明しているかのような微笑みだ。
「俺はまだ仕事が残っていたので。」
律儀な口調で答えたのは草薙ジンだ。
「そうか。俺も見回り行ってて、間に合わなかったんだよ。」
スオウは少し残念そうに答える。イベント事が好きなスオウは、とりあえず何にでも首を突っ込まずにはいられない性質のため、フォークダンスが出来なかったことは残念だったのだろう。
(……誰も、踊ってないのか?)
全員の思わぬ返答に、明人は驚いて目を瞠る。
(……ということは、誰のルートにも入っていないのか?)
あれだけ全員とイベントを起こして、全員の好感度を上げて、全員にいい顔をして、全員の中心でへらへらして八方美人が過ぎると言っても過言ではなかった主人公だというのに、このルート分岐において重要な局面で、どの選択肢も取らなかったというのか?
(……まさか、ハーレムルートかっ!?……いや、それなら全員と踊っている方が自然だ……。……だとしたら、あれか?伝説の灰色決着というヤツか?全員と仲良くなりすぎて、どれも選べずに誰も選ばないことで手打ちにしたとか?)
明人は今後のあらゆる可能性について考え始めた。
「シュウは踊ったか?」
部屋の隅でそれどころではない沈思黙考中の明人にも、ついでのようにスオウが聞いてきたので、明人は嫌そうな表情を隠すこともせずに端的に答えた。
「俺が踊ると思うか?」
水嶋シュウとフォークダンスなど、絶対にありえない組み合わせだ。
もしも罰ゲームか何かで踊らなくてはならないとしたら、そんな罰ゲームをしようと言い出した奴を秘密裏に始末してでもそんなことにはならないように策を弄するのが水嶋シュウという男である。
「ははは。思わねえ。」
質問した本人のスオウも、水嶋シュウとフォークダンスの組み合わせの可能性のなさに笑っていた。




