第六章 学園祭、その後……⑥
六
(結局、あんまり寝られなかった……。)
水嶋シュウにしては珍しく、昼過ぎまでベッドの中でぐずぐずしていたが、一瞬眠っても悪夢にうなされたりしたせいでうまく睡眠がとれたとは言い難かった。ただでさえ、昨夜は完全に(しかも屋外で)寝落ちしてしまったというのに……。
いくら体力にある程度の自信がある水嶋シュウの肉体をもってしても、これでは本調子にはならない。寝不足が原因で顔つきは普段より三割ほど凶悪になり、精神的な疲労から来ているであろう頭痛が明人を襲っていた。
本当はこのまま寮の自室に籠って休日を過ごしたかったが、スマホに届いたスオウからのメッセージが明人を休ませてはくれなかった。
『多目的室に集合な。とりあえず、慰労会だ。』
慰労が目的なら、本当は自室で心ゆくまで休ませてほしい。
明人は切実にそう願ったが、行かないと行かないでスオウが無遠慮に誘いに来そうだし、何より明人自身にも早急に確かめたいことがあった。
なので、明人は頭痛を抱えながら凶悪な顔で寮内の多目的室へと向けて廊下を歩いているのだった。
明人が無理をしてまで確認したいこと。それは、『結局、ルート分岐はどうなったか?』ということだ。
学園祭当日も、その前も、あれだけ攻略キャラたちと万遍なくイベントを発生させていたのだから、さすがに主人公も誰かとくっついているだろう。
明人は誰かの個別ルートに分岐したという事実を確認したくて、攻略キャラが揃う生徒会の集まりに参加することにしたのだ。
はっきりと個別ルートに分岐したという確証があるかは分からないが、それでもそれくくらい親密度が増したのなら、何かしら目に見えて分かる変化もあるだろうと予測しての行動だ。
明人は分かりやすく未来への希望が欲しかった。
そうして、安心したかったのだ。
希望が見え、安心できたのなら、いま現在進行形で明人を襲う頭痛も緩和されるに違いない。
明人は多目的室の前に到着すると、覚悟を決めるように息を吐き出す。
そして、扉へと手を掛けた。
「おっ!シュウ。こっちだ!!」
扉を開けると、まず初めに会長のスオウが声を掛けてくる。
スオウはしっかりと休息を取ったぞというような元気溢れる張りのある声を響かせる。
明人とは違い、昨日の学園祭の疲労は既に回復したようだ。
室内には、椅子と机が適当に並べられ、机の上には雑多な菓子類や飲料が置かれていた。
その準備の大雑把さから、スオウがこの慰労会の責任者であることが察せられた。
(……スオウのヤツ、ノリで買い出しに行ったな……。)
勢いとノリの男・藤原スオウの真骨頂と呼べるテキトーさで、今回の集まりが慰労会とは名ばかりの行き当たりばったりの会合であることが理解できる。
(……まあ悪気はないからな、スオウに。)
皆を労いたいというスオウの気持ちだけは本物であるのだろう。
それを感じたからこそ、生徒会の面々は休日にもかかわらず、それぞれ集まっているように見えた。
「……。」
覚悟を決めて部屋に入ったはいいが、明人がどれだけ見回しても室内に鈴木ハルトの姿はなかった。どうやら、主人公・鈴木ハルトはまだ来ていないらしい。
スオウの元へ近づいていくと、スオウは明人の顔を見て目を丸くした。
「何かいつもよりも更に悪い顔になってないか?」
「……うるさい。寝不足なんだ。」
能天気なスオウの言葉に、明人はメガネ越しに睨み付けてやる。
スオウは肩を竦めて笑った。
「ははは。まあ昨日は信じられないくらい忙しかったからな。」
スオウの言葉に室内にいた全員がしみじみと頷く。
そこで、ようやく室内にいた全員、学園祭が無事に終了したことを実感できたのだった。




