第六章 学園祭、その後……⑤
五
寮の中には大浴場もあるが、使用時間は決まっている。
そのため寮の部屋の中にもシャワールームが完備されていた。
シャワールームでシャワーを浴びながら、明人は改めて均整のとれた水嶋シュウの身体を何となく見下ろす。
本当は熱いシャワーを浴びて、すっきりしたかったが、あまり熱いシャワーを浴びて目が覚めてしまっては眠れなくなってしまう。なので、温度は適温である。
シャワーを終え、素肌にバスローブを引っ掛け、タオルで髪の水分を拭う。
自分の物でありながら自分の物ではない身体を、明人は他人事のように鏡越しに見つめた。
(……姉ちゃんが、よだれ出して喜びそうだな……。)
女性だけではなく、男にもモテそうなくらいの老若男女を虜にしそうな肉体は、手も足もすらっと長く、無駄な肉が一切ついていない。一応、明人とて毎日の日課として筋トレは行っているが、どうやらこの肉体は生まれ持ってのもののようで、大した努力をせずとも維持できるようにできているらしい。
シャワーのために外したメガネを掛けて、鏡に映る水嶋シュウの顔を見つめる。
(……自信満々だよな、水嶋シュウ。)
明人だった頃は、こんな表情はしたくても出来なかった。
一睨みで周囲を圧倒し、黙っていれば誰も近寄ってこない。そんな冷徹な美貌を持つというのに、BLゲームの攻略キャラなのだ。この水嶋シュウという男は。
(……いや、攻略キャラだからこそなのか……。)
男を悦に入って眺める趣味は明人にはないので、ため息を吐くと鏡から視線を逸らす。
そして、部屋の中を進むと、ベッドへと腰かけた。
屋上で寝落ちしたとはいえ、睡眠が十分に足りているとは言い難い。
それに、もう何もかも忘れて、一度脳みそをリセットしたかった。
(……もう、寝よう。)
普段なら絶対にパジャマに着替えて寝る水嶋シュウだが、今日はそのままベッドへと倒れ込んだ。
「……。」
倒れ込んだベッドの感触に、心が解きほぐされていくのを感じる。
(ああ、柔らかい。……屋上は硬かったから……。)
忘れないうちにメガネを外し、ベッドサイドに置く。
(……枕、枕。)
枕を手で手繰り寄せ、そのまま顔を埋めるように抱きしめる。
今日は休みなので、何も気にせず寝たいだけ寝ることにしようと明人は心に決めた。ただでさえ、二学期から今日まで休みなしに働き続けてきたせいで、もう肉体的にも精神的にも限界だった。
(……ああ、もう……、ダメだ……。……眠い。)
目を閉じれば睡魔が襲ってくる。
屋上とは違い、寮の部屋のベッドは寝心地が極上だ。
枕もふかふかで、清潔なシーツの香りも、全てが心地よい眠りを誘ってくる。何より、ここは室内で屋外ではない。睡眠環境としてはばっちりだ。
(………もう、目覚めたくない……。)
明人はそのまま意識を手放すことにした。
……いや、手放そうとした。
だが、ふと何かが心に引っかかって、意識を手放せなかった。
(……あれ?)
枕に突っ伏していた頭をくるんと上に向け、仰向けの姿勢を取り、天井を見つめる。
(……屋上で、どうやって寝てたんだ、俺?)
明人は眠い頭で、記憶を呼び起こそうとする。
(……確か、寝落ちする前に、アイツが来て……。で、起きたら、アイツがいて……。)
再生された記憶の中で鈴木ハルトが何か言っている。
「……。確か……。」
(……足が痺れてとか…、言ってたか?)
無意識に枕を触る明人。
そこで、ようやく合点がいく。
(……あれって、膝枕じゃね?)
どうやら明人は寝落ちした後、しばらくの間、鈴木ハルトの膝枕で寝ていたらしい。
その事実にようやく今、明人は気が付いたのだった。
(えっ?嘘でしょっ!?野郎の膝枕って……、えっ?)
気が付いたら、今度は気になって仕方がなくなってしまう。
(えっ?ちょっと、どういうこと?膝枕って?)
疑問が脳内を埋め尽くすが、まさか鈴木ハルト本人に事実を確かめるわけにもいくまい。しかし確かめられないといっても、捨て置けるようなことではない。
答えの出ない疑問がぐるぐると脳内を回り始める。
それからしばらく、明人はベッドの中で一人煩悶することしかできなかった。




