第六章 学園祭、その後……④
四
どこをどう歩いたか分からないが、寝起きにしては信じられないほどのスピードで明人は寮の自室まで戻っていた。
自室に戻った途端、バタンと閉めた扉に背を預け、頭を抱える。
(……えっ?結局、学園祭って、どうなった?)
学園祭当日は、かなり上手くいっていたはずだ。
明人は他の攻略キャラたちが次々とイベントを起こしていくのを見送り、ずっと安全圏からそれを眺めていた。それどころか次々にやって来るトラブルすらうまく捌き切り、学園祭も大成功だったはずだ。
フィナーレが始まった段階で、さすがにもういいだろ?と、生徒会室を抜け出し、全てからエスケープするために屋上へとやってきたとこまでは完璧だった。
(……屋上で、一人で、花火を見ていて……。)
その辺りから少しずつ気が抜けていたのだ明人は。
フィナーレのフォークダンスの会場から一番遠い屋上など、誰も来るはずがないと思い、しゃがみこんだら疲労で立ち上がれなくなったのだ。
このまま眠ってしまってもいいかなどと考えながら花火を見上げていたら、何故か一人のはずの屋上に水嶋シュウ以外の声が聞こえたのだ。
(………でも、いたよな?アイツ…。)
誰からも何からも逃げてきたはずの屋上に、最後の最後でやって来た主人公・鈴木ハルト。屋上からの花火の眺めに無邪気な声を上げていた。
(……えっ?あれって、どういうこと?どういう状況?フォークダンスのパートナーじゃないけど?)
必死に記憶を辿り、姉の言葉を手繰り寄せる。
(だって、姉ちゃん言ってたよな?ルート分岐の最終的な決定は、学園祭のパートナー選びだって……。)
そもそもフォークダンスの会場に明人は行っていないし、屋上で確か主人公・鈴木ハルトはフォークダンスがどうとか言っていたが、明人は疲労困憊でそれどころではなく踊ってなどいないはずだ。
昨夜の自分の行動も必死に思い出し、現状を理解しようとして必死に頭を回転させる明人。
(……というか、さっきのって、どういう状況?)
とりあえず屋上から全力で逃げ帰りはしたが、先程自分が陥っていた状況も未だ理解が追い付いていない。
明人は、がしがしと頭を掻き毟り、その場にしゃがみ込んだ。
「……くそっ。」
(あああああああ、もう全然わからんっ!!)
水嶋シュウのチート的頭脳をもってしても、現在の状況をゲーム展開的に正確に理解するのは酷く難解であった。
(……助けてくれ、姉ちゃん…。)
今はこの世界のどこにも存在しない姉に、明人は助けを求めたくて仕方なかった。
そんな明人のスマホに、着信を知らせる振動が起きる。
しゃがみこんだ姿勢のまま、スマホを取出し画面を確認する。
そこには、能天気なスオウのメッセージが表示されていた。
『打ち上げやるか?』
「……。」
明人はスオウのメッセージを未読スルーすることにした。
そして、扉の前から立ち上がる。
「……寝よう。」
とりあえず、全てを忘れて眠ることにして、明人は着替えとシャワーの準備を始めたのだった。




