第六章 学園祭、その後……①
第6章 学園祭、その後……
一
姉の声が聞こえた気がして、明人は意識を傾ける。
「シュウ様ったら、屋上で疲れて寝ちゃうのよ。それでね……。」
相も変わらず嬉しそうに水島シュウの話をしている。
(……姉ちゃん。)
明人は姉が何故これほど水嶋シュウに夢中になるのかが全く理解できなかった。
水嶋シュウとして数か月過ごした今でも、全く理解できる気がしない。明人にしてみれば、絶対に他の攻略キャラの方が魅力的だと断言できた。魅力的と言っても、明人にBL感覚はないので友人として付き合った場合に限るが、それでも身近に他の攻略キャラと付き合ってきた経験を踏まえて評価するなら、水嶋シュウ以外がいいとはっきりと言えた。
(……絶対、男の趣味が悪いよ……。)
もっと親切で優しくて大切にしてくれる相手を選んだ方が、絶対に幸せになれる。
主人公だって、水嶋シュウ以外のルートに進んだ方が、相手に大切にされて幸せなはずだ。
明人だって、水嶋シュウルート以外に進んでもらった方が、BL展開をこなす必要がなくなり大助かりだ。
「ふふふ。いつもはあの完璧超人のシュウ様も、さすがに殺人的スケジュールの学園祭の中、一日中働き通しで疲れちゃったのよね。普段なら絶対見られないのよ、こんな弱ったとこなんて……。尊いわ。ホント、尊い!」
姉の言葉は続いている。
明人は何となく、今、自分が夢を見ているのだということに気付いていていた。
ただ夢の中とはいえ、能天気な姉の言葉には黙っていられず反論する。
(いや、どれだけ優秀でも、人間なんだから限界はあるんだよ?普段は見せてないだけで、寮の部屋に帰ったら、ベッドにダイブだよ?生徒会は忙しいんだから。)
もちろん、どれだけ忙しくても身支度は完璧で、寝る前にも起きた時にもベッドをきちんと整えるのは当たり前、次の日の準備を欠かしたりはしないのが水嶋シュウであるが、そんな水嶋シュウでも体力や能力の限界というのは存在する。その上、まだ水嶋シュウは学生なのだ。全方向に完璧に振舞えるわけではない。ただ他人に弱みを見せたくないだけの意地っ張りなのだ。
「でも、そのおかげで、主人公が近づける隙が出来るのよ。そうでもなきゃ、絶対シュウ様が張ってるバリアを越えて近づくなんて無理よ。」
(いや、姉ちゃん。俺は近づいてほしくなんかないんだよ?)
夢の中で聞こえてくる姉の声に、明人は反論を続けていく。
ただ、反論したところで姉の声は明人の記憶の中の物でしかないので、全く意味はないのだが……。
「他のキャラのルートはね、キャンプファイヤーのフォークダンスのパートナーに決めた時点で決定して始まるんだけどね。ふふふ。シュウ様ルートは特別なのよ。」
(えっ?ちょっと待って!姉ちゃん、今、何て言ったの?)
夢の中で聞こえていた姉の声がだんだんと遠ざかり、少しずつ小さくなっていく。
明人は小さくなっていく姉の声を必死に拾おうとするが、あまりに頼りなく響く小さな声はもう良く聞こえない。
「……フォークダン……は、……らないの。ふふふ。……って、シュウ……に、似合……ないでしょ?」
(ちょっ!それっ!!大事なとこだからっ!!もっとはっきり!!)
明人が慌てるが、姉の声はもう聞こえないくらい小さくなっていた。
代わりに、別の声が明人の脳内に響き始める。
「……いちょう……。……嶋さん……。」
(ああ、もううるさい!いま大事なところなんだよ!黙っててくれ!)
新たに聞こえてきた声に、夢の中で文句をつける明人。
だが、せっかく聞こうとした姉の大切な言葉は、新たな声のせいで完全に聞こえなくなってしまった。
「……あのー。……きてください。」
姉の声とは反対に、明人の邪魔をするように聞こえる新たな声はどんどん大きく明瞭になっていく。
その声は水嶋シュウを呼んでいた。
その酷く聞き覚えのある声に、明人は夢の中でまで思わず顰め面をする。
(……何て傍迷惑なヤツだ。うるさくてかなわない。)
「……そろそろ、あの……。水嶋さん!」
明人の意識が浮上し始める。
どうやら、この癇に障る声のせいで夢は終わるようだ。
(くそっ、起きたら絶対文句を言ってやる……。)
明人はそう心に誓って、夢から目覚める。
ふわっという浮遊感の後、意識は白い光に包まれた。




