第五章 戦慄の学園祭、到来!!③
三
こうして学園祭は始まった。
今日一日は明人にとっても生徒会にとっても気が抜けない勝負の一日である。
個別ルート分岐を封じることで明るい未来を手にするために、明人は今日一日を平穏無事に何事もなく乗り切らなくてはならないし、今まできりきり舞いで準備してきた生徒会としても学園祭を成功させるために気合を入れなくてはならない。
朝、ルーティンを崩さない水島シュウでありながらも珍しくいつもよりも少しだけ早く目覚めると、明人は大きく息を吐き出した。
(今日で全てが決まる……。)
顔を洗い、鏡に映る水嶋シュウの顔はいつもより厳しく引き締まっていた。
身支度を終え、制服姿で寮の廊下へ出ると、スオウに出くわす。
スオウは学園祭という祭りの雰囲気に気分を高揚させているようで、いつもよりも更に気力に満ち満ちていた。
「よおっ!」
「……朝から騒がしいな。」
とりあえず牽制しておく。気合が入っているのはいいことではあるが、あまりテンション高くいてもらっても鬱陶しい。
だが、祭りの雰囲気を既に身体中に漲らせているスオウにそんな言葉は通じなかった。
「はははは。いいだろ?」
「………。」
これ以上は何を言っても無駄だろう。
明人は朝から疲れる問答を繰り広げることを早々に諦め、学校へと向かうことにした。
「今日は忙しい。行くぞ。」
「おう!」
今日は朝から運営として忙しなく立ち働かなければならない。こんなところで祭りに浮かれるスオウ相手に時間を無駄にしている場合ではない。
明人にとってはこの世界に転生してきて初めてのBL学園での学園祭だが、学園祭を楽しむ余裕などないだろう。そこは既に諦めている。今日はただでさえ己の運命がかかった一日なのだ。たとえ楽しむ暇があったとしても、楽しんではいられなかっただろう。ならば、忙しくしていた方が気が紛れる。
学校へと向かう明人の足取りは、まるで戦場へと向かう戦士のように力強いものであった。
「待てよ、シュウ。」
反対にスオウは放っておいたらスキップでもしそうなほど軽い足取りで、学校へと向かっていた。
スオウにしてみれば、今日という日は大切な学園での思い出の一ページである。それに、どれだけ忙しかろうと藤原スオウという人間ならば、器用に僅かな隙間のような隙を見つけて、しっかりとちゃっかりと学園祭を楽しみそうだ。
いつもならそんなこと許すわけにはいかないが、スオウが今日の学園祭を楽しむことはすなわち主人公とのイベントであるため、今日だけは明人は見て見ぬふりしようと心に決めていた。スオウが主人公との仲を深めれば深めるほど、明人はより安全な未来を手に入れられるのだ。
もちろん、それはスオウ以外の攻略キャラ達でも同じである。
だから、明人は今日、全ての攻略キャラたちが学園祭を心から楽しめるように、脇役に徹することを自分に課していた。
お祭り気分で浮かれる愚か者たちを取り締まり、学園祭が平穏無事に進行していくように、きっちりと目を光らせることと、その忙しさの間もイベントを発生させるために攻略キャラたちを学園祭へと送り出していくこと、この二つが本日の明人の大切な役目である。
学園へと向かう途中の明人は、水嶋シュウとして既にメガネを光らせ始めていたのだった。




