第四章 小動物vs鬼畜①
第四章 小動物vs鬼畜
一
「あのね、シュウ様はね。飲み込む前の獲物を見つめる蛇のような視線で、いつも主人公を見つめるのよ。ステキでしょ?」
「……そうなんだ。」
(いや、全くステキさが分からないよ、姉ちゃん。何で、好きなヤツを獲物みたいに見つめなくちゃならないんだよ?)
姉の言葉にそんな感想を持った過去を懐かしく思いながら、明人は正しくそんな視線で主人公・鈴木ハルトを射抜くように見つめていた。
そんな視線を感じ取り、鈴木ハルトの方は明人の方を極力見ないようにしていた。
既に初めての顔合わせも終わり、顧問の高槻は早々に生徒会室から去り、それぞれの部活動で忙しい二年生メンバーも去り、室内に残されたのは膨大な業務と新顔の一年生二人、それに笑顔でウェルカムな雰囲気を醸し出す会長と歓迎ムードを一切見せない冷酷な副会長だけである。
「おい、シュウ。顔が怖ぇよ。一年がビビってるだろ?」
「うるさい。」
スオウの言うことは尤もであるのだが、明人がその意見に承服することは出来なかった。
どうせ何をやっても水嶋シュウの見てくれは冷酷で恐怖感を与えがちだし、何より主人公・鈴木ハルト相手に友好的な雰囲気など出せるわけがない。少しでも隙を見せれば、あちらは嬉々としてBL展開に持ち込もうとする元凶なのだ。明人にとっては警戒こそすれ、歓迎するような相手ではないのだ。
そうでなくても、先程、絶対にあからさまに避けると誓ったばかりの相手である。
なので、明人は誰よりも先に今後の方針を決めるべく口を開いた。
「おい、南野と言ったな?」
急に自分に矛先が向いたせいで、南野タケルは驚いて返事をする。
「は、はい!」
「来い!仕事を教える。」
「わ、分かりました。」
副会長自らのご指名では断るわけにもいかず、タケルは頷くと明人の後について室内を進み始めた。
明人はそのまま止まることなく、捨て台詞のようにその場に吐き捨てていく。
「もう一人はスオウに任せる。せめて少しでも使えるようにしておけ。」
「お、おう。」
戸惑いながらも、スオウは頷き、新メンバーの指導係は早々に決まっていた。ハルトの担当はスオウで、タケルの担当が明人である。
明人が空いている机の前までタケルを先導し、タケルの前に書類を積み上げる。
タケルは明人の行動全てを口を開けて見詰めながらも、余計な口は挟まなかった。
「比較的、処理しやすい書類だ。とりあえず、やってみろ。使えないヤツは生徒会に必要ない。分かるな?」
「は、はい。」
端的な明人の要求に、タケルは頷く。明人の迫力に気圧されてはいるが、足手まといになりそうな雰囲気は感じない。
(飲み込みが早そうだ。これなら大丈夫か?)
期待してもよさそうなタケルの様子に、業務に忙殺されている生徒会執行部の一員として少しだけ安堵する明人。面倒な方の新人も、BL展開も、全てを今スオウに押しつけたので、これからはこの南野タケルを生徒会の一員として教育することで、学園祭までの日々を平穏に過ごすことに決めていた。
「分からない時は、聞け。勝手に判断する方が後々面倒になる。何かあったら、報告しろ。他に質問はあるか?」
「えーっと、今のところはなさそうです。」
「では、始めろ。生徒会は目が回るほど忙しい。覚悟しておけ。」
伝えたいことは全て伝えたので、明人は自分の業務に戻ることにする。
少々、浮かれた感じのする陽キャの南野タケルだが、何より選び抜かれた攻略キャラであるし、生徒会に選ばれるほどには優秀であるし問題はないだろう。それに、要領がいいという設定もあったはずだ。
タケルは書類の乗った机の前に着席すると、すぐに書類に目を通し始めた。
押し付けたスオウの方を全く気にかけず、明人は自分の分の業務に没頭する。
時折、明人の作業の合間を縫って、タイミングよくまとめて質問に来るタケルは、大した指導をせずとも戦力になりそうで、手のかからなさそうな一年生の増員は、生徒会にとっても明人にとっても、とても喜ばしいことであった。
(……何よりコイツは攻めだ。どれだけ厳しくしても優しくしても、BL展開になりえないのがいい。)
明人は当初の絶望から少しだけ軽くなった気分を抱え、新メンバー加入の一日目をこうして過ごしたのだった。




