第三章 運命のイタズラ⑩
十
「おう、お前たち。揃ってるようだな。」
顧問の高槻が扉を開けて生徒会室へとやって来る。
室内にいた生徒会執行部全員の視線が高槻へと集まった。
高槻は時間を無駄にせず、お為ごかしの挨拶などをすることなく端的に口を開く。
「今日呼んだのは、他でもない。今年の一年のメンバーが新加入することになったので、その顔合わせのためだ。」
そこまで説明すると、高槻は扉の向こうへと呼びかける。
「おい!入って来い。」
すると、外から扉が開かれ、二人の一年生が室内へと入ってくる。
まず初めに入ってきたのは、明らかに性格が明るそうな生徒だった。
生徒会に選ばれるということは優秀で有能なのだろうが、二年生の落ち着いた二人と比べると明らかに浮ついている。スオウと一緒に騒ぎそうな、そんな雰囲気の後輩だ。
明人は見覚えのあるその顔に、嫌な予感がして寒気のようなものすら覚えていた。
「南野タケルです。先輩方、よろしくお願いします。」
にこにこというかへらへらとした顔で、ぺこりと頭を下げる南野タケル。
人なつっこさと要領の良さで、苦労せずに世間を渡っていけそうなそんな男である。もちろん、この南野タケルも攻略キャラの一人である。
そして、そんな南野タケルの後ろから、オドオドとした様子で室内に入ってくるもう一人の一年メンバー。
その顔を見た途端、明人は絶望に心が支配されるのを感じていた。
「……あ、あの、」
「おっ!ハルトじゃねえか!」
「あっ、か、会長。よろしくお願いします。」
自己紹介が終わる前にフライングで声を掛けたスオウに、ゲームの主人公・鈴木ハルトははにかむようにして微笑む。
この場のメンバー全員が見知っている顔の登場に、それぞれが雰囲気を柔らかくして新しいメンバーを迎えていた。
もちろん、歓迎ムードなのは明人以外のメンバーである。
明人は絶望と空しさと無力感で、頭痛がし始めた頭を両手で支えた。そうしなければ、机に突っ伏してしまいそうだった。
「す、鈴木ハルトです。頑張ります。よ、よろしくお願いします。」
おどおどと、それでもはっきりと響く声で自己紹介をするゲームの主人公・鈴木ハルト。
こうして、室内にはゲームの攻略キャラが全員集合したのだった。
総受けの主人公を中心にして、攻めのキャラクターがサブキャラを含め六人。全てが男。皆、無駄にキラキラし、無駄に優秀で、無駄に個性的だ。実に壮観である。
非常に不本意ではあるがその中の一人でありながら、この状況に一番異議を唱えたい明人は、歓迎ムードの漂う中で一人、業務に没頭することで全てを無視することに決めていた。自棄になっていたと言っても過言ではない。
どれだけ距離を取ろうとしても、向こうからやって来る。
無関係でいたいのに、明人の意思は無視してBL展開は進んでいく。
大体、これだけの男たちに狙われている状況というのは、恐ろしくないのか?
そう明人は純粋に猛烈に主人公に対して感じてはいるが、口に出すことはない。どうせ口に出したところで、カマトトぶってるのか本気で気づいていないのか分からない顔で、首を傾げて見せるだけなのだ、この初心設定の主人公というヤツは。
しかし、明人から見れば総受けの主人公はどう考えても飛んで火に入る夏の虫であり、カモがネギを背負って嬉々として自ずからやって来ている気がしてならない。これだけ複数の男の中にわざわざ狙われにやって来るのだ、自ら。
(……絶対、ドMなんだ、コイツ……。)
明人はこの時、自分のしていた勘違いにようやく気付いていた。ドS鬼畜メガネに出会って、主人公はドMに開花するのではなく、もう元々ドMなのだ。でなければ、これほど自らの身を危険にさらすような場所におめおめとうかうかとやって来るはずなどない。もしも知らずに来ているのなら危機意識がザル過ぎるし、誰かが早急に教えてやる必要があるだろうが、多分そうではない。わざわざ狙われにやって来て、飢えた狼たちの前にその身を晒しているのだ。
(とんだド変態なんだ、コイツは。絶対に関わってはダメな人種だ……。)
仕事に忙殺されていますという顔をして、明人は魂に刻み込むようにしてそう決意を固めると、自らの視界から危険人物の姿を排除したのだった。




