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第三章 運命のイタズラ①

   第三章 運命のイタズラ


     一


「いい?シュウ様の魅力はね。まず、第一にぶっちぎりに鬼畜なところなのよ。」

「……。」

(……いや、鬼畜ってけなしてんだろ?どう聞いても、褒め言葉に聞こえないんだが。)

「アンタ、全然分かんないって顔してんじゃないわよ。これだから、アンタは……。だからね、まずは……、そうね。あっ、シュウ様の初めのイベントなんだけどね。もうシュウ様ったら、最初から鬼畜感が凄いの!ぶっちぎりに鬼畜なのよ!他のキャラはね、出会いの時からそれなりに親切だったり、優しかったり、多少つれないキャラもいるけど……。でも、皆、常識の範囲内なのよ。けどね、シュウ様は違うの。初めから全速力のフルスロットルなのよ。ちょっと、それどうなの?ってくらいなの!!これって、多分シュウ様を許容できるかどうかを試されてるのよ、制作サイドからのテストなのよ。こんな男ですけど、大丈夫ですか?って。分かる?もちろん、私は大丈夫よ。大丈夫って言うか、望むところよ!」

「……そうなんだ。」

(何が大丈夫で、何が大丈夫じゃないかも分からん……。)

 いつぞやの姉との会話が、明人の脳内を駆け抜けていく。

 だが、いつまで経っても姉の会話内容は意味不明で具体性に欠けていて、明人に天啓を齎しはしなかった。

「……あ、あの……。」

(……な、何でっ!?)

 驚愕で言葉も出ない明人の目の前で、ぶちまけた荷物の中、小動物のように震えているのはゲームの主人公・鈴木ハルトであるというのに……。

(どうしてここにいるっ!?)

 先程まで生徒会室には明人一人だったはずだ。

 休憩を挟もうと奥でコーヒーを淹れるために席を離れた隙に、何故こんな事態に陥っているのか?

 先程した大きな音は、この主人公が荷物をぶちまけた音に違いないのだろうが、問題は何故生徒会メンバーでもない限り用のない生徒会室に、この主人公が存在しているのかということだ。

(い、イベントが向こうからやって来たとでもいうのかっ!?)

 全く想定していなかった事態に明人は恐慌状態だった。

 せっかくイベントを起こさないようにフラグを立てないようにと、この主人公の存在を忌避して今まで学生生活を送っていたというのに……。向こうからやって来るなど聞いていないし、今までの努力が台無しだ。

 いや、台無しなのは今までの努力だけではない。

 このぶちまけられた荷物の片づけをしなくてはならない時間を考えると、せっかく先程一人で集中して片づけた仕事によって浮いた時間も台無しになった。何なら、仕事が増えた。

(……いったい、何なんだよ、コイツ!)

「……お、俺。あの…。」

 明人は鬼畜ではないが、恐慌に陥っていたせいでキャパがいっぱいで心に余裕がなくなっていたし、仕事が増やされたことにイライラはしていた。なので、そういう空気は醸し出していたし、何より外見は鬼畜メガネという設定の冷酷さを持つ水嶋シュウである。

 そんな水嶋シュウが無言で突っ立ったままというのは、かなりの威圧感を主人公・鈴木ハルトに与えていた。

 ただでさえ、水嶋シュウは三年の先輩で、鈴木ハルトは一年の後輩の上に編入生で学校にも慣れていない。それだけで過度に緊張するには十分な事態であるというのに、その上で今、鈴木ハルトは失態を犯した状況なのだ。本来ならば、一刻も早く失態を挽回しなければならぬ状況であるというのに、鈴木ハルトは威圧感に気圧されてしまい、謝罪一つ口から出すことも出来ず、ただ怯えて震えている。

 泣き出しそうな顔で、それでも鈴木ハルトは何度か逡巡した後、最後の勇気を振り絞るようにして口を開いた。

「……か、会長に、あの……渡して、下さい……。」

 ぶちまけた荷物の中で、主人公・鈴木ハルトは何かを明人に向けて差し出した。

 主人公を見下ろしたまま、明人は差し出された物を確認する。

 それは、見覚えのある財布だった。

(……確かに、スオウのものだな……。)

 どうせスオウのことだから、何かのついでに忘れていったのだろう。それを届けに来るとは、この主人公は律儀なものだ。落し物なんて、職員室の隅にある落し物入れに入れておけばいいだけだというのに。

「………。」

 無言で財布を受け取る明人。

 財布を差し出されて目的がはっきりしたことで、少しだけ気持ちが落ち着いてきた。

(……これって、もしかして水嶋シュウのイベントじゃなくて、スオウのイベントか?)

 会長のスオウの名が出たことで、新しい可能性も見え、少しだけ胸を撫で下ろす。

 未だ姉との会話は細部まで思い出せないが、初めのイベントの鬼畜ぶりが凄いという姉の見解からしても、友人の財布を届けに来ただけの主人公に対して、そんな状況にはなりえなさそうだ。

 明人は安心材料を積み重ねて、自分の心の安寧を取り戻すよう努力しながら、怒りを収めることにした。


 


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