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第二章 ついに二学期(ゲーム)スタート!!⑧

     八


 生徒会室の扉をノックすると、明人は生徒会室の扉を開けた。

 だが、ノックの甲斐はなく、中には誰の姿もなかった。

(皆、まだなのか?)

 室内を見渡しても、誰かが先に来ている様子はない。

 明人はまあそんなこともあるだろうとさして気にも留めずに自分の席に着いて、終わる当てのない仕事を今日も始めることにした。

 会長のスオウは隙あらば校内の見回りと称して書類仕事から抜け出そうとするのはしょっちゅうだし、会計のジンは剣術部と兼任なので部の活動が忙しい時には生徒会に来られないこともある。大会前などは本当に忙しそうで気の毒にさえ感じるものだ。

(確か、剣術部は秋の新人戦があるはずだから、今頃、新入生の指導か?)

 書記のレイも美術部などの文化部と兼任で、学園祭では作品を発表するらしいので、そちらの制作も忙しいのかもしれない。

 いつもよりも静かで広く感じる生徒会室の中で、明人は早速仕事に取り掛かった。

 誰もいない一人きりの室内では、ゾーンと呼べそうなほどの集中力を駆使して明人史上最高のパフォーマンスを発揮できたと言っても過言ではなく、仕事が殊の外捗った。

 どれくらいそうしていただろう。

 ふと気が付いて時計を見た時には、体感していた時間の倍以上の時間が過ぎていた。

 ずっと同じ姿勢で作業していたせいで、身体が凝り固まっている。

 明人はさすがにそろそろ休憩を入れた方がいいと感じ、ふっと息を吐いた。

 そんな時だ。

 生徒会室の扉の向こうから、誰かが控えめにノックしてきたのは。

「……。」

 一瞬、明人はノックの音が気になったが、それでも生徒会の誰かならすぐに扉を開けて中に入ってくるだろうと思い、そのままにして椅子から立ち上がった。

 生徒会室の奥には、常態化した長時間作業の休憩用として給湯室のようになっている場所がある。

 いつからあるものか分からないが、カセットコンロのようなもの(魔法で点火するマジックアイテムなのでマジックコンロと呼ばれている)が置いてあり、生徒会メンバー各々が持ち込んだ各々の好みの飲み物を入れるためのグッズが溢れている。

 会長のスオウは何でも飲むし何なら購買や自販機で買ってくるので何も持ち込んでいないが、会計のジンは急須と茶葉と湯呑を常備していて、書記のレイはティーセットと茶葉を常備している。

 明人も水嶋シュウの設定もあり、コーヒーを用意していた。ただ、忙しい合間の休憩用なのでさすがにコーヒーメイカーと豆を用意するわけにもいかず、お湯を注ぐだけのドリップパックのコーヒーだが。

 ジンが持ち込んだ鉄器のやかんでお湯を沸かすのも面倒で、ケトル(こちらも動力源は魔力のマジックアイテムなのでマジックケトルと呼ばれている)に水を入れてスイッチを入れた。

 常備してあるマグカップにドリップパックを引っ掛け、ケトルのお湯が沸くのを待つ。

 ケトルが立てる音を聞きながら、明人は完全に気を抜いていた。

 さすがに一人きりの室内での仕事が捗ったからといって、集中し過ぎた。水嶋シュウとしてのチートのような高い能力とポテンシャルを持っていたとしても、人間である以上疲労感はどうしてもやって来る。

 メガネを外し、目頭を揉む。

 書類仕事というのはどうしても目を酷使しがちだ。

 ただでさえ、水嶋シュウは目が悪い。近視に乱視が入っている。

 手元を見る作業ならばさほど問題はないが、メガネ越しというのは裸眼で過ごしてきた時間の長い明人にとっては、まだ慣れないことの一つだった。

(メガネが身体の一部になる日は、まだ遠いな……。)

 どうでもいい感想が脳内に浮かぶ。

 長時間の作業によって脳もかなり疲労しているらしい。

 糖分も必要かもしれないと思い、普段は水嶋シュウの設定的にブラックのまま飲みがちなコーヒーに栄養補給のための糖分を入れる必要性を感じた。

「……確か、この辺りにスティックシュガーが……。」

 何かのついでに会長のスオウが持って来たスティックシュガーが結局誰にも使われずに放置してあったのを思い出し、明人は記憶を頼りにスティックシュガーの姿を探した。

「……あった。」

 わりと手前の方からスティックシュガーは発掘され、ドリップパックの隙間からマグカップの中にさらさらと流し込む。

 カチンっ。

 タイミングを計ったかのように、ケトルのお湯も沸いたようだ。

 明人はドリップパックの上からお湯を注いだ。

 お湯を浴び、コーヒーが芳しい香りを立て始める。

 周囲に漂うコーヒーの香りに満足し、明人が微笑んだ。

 事が起きたのは、まさにその時だった。

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