第二章 ついに二学期(ゲーム)スタート!!②
二
「そろそろ帰らないと門限だな。」
腕の時計を確認して、スオウが名残惜しげにぼやく。
「もうそんな時間か?」
明人も夏休みが名残惜しかったが、生徒会の会長と副会長が揃って門限を破るわけにも行かず、後ろ髪曳かれる思いを振り切って立ち上がった。
夏の長い日が暮れ始める頃、夏休み最終日を惜しんでいたスオウと明人の二人も、ようやく帰路に着き始める。
「明日からは二学期か……。学園祭まで休みなしか……。」
いくら体力に満ち溢れた十代の学生でも、限界はある。いや、藤原スオウは体力に限界はなさそうなほど精力的なので、先に音を上げるのは精神の方かもしれない。
「……何を言っている?学園祭が終わっても、二年に引き継ぎを終えるまでは休みなどないと思え。」
既にげんなりとしているスオウを励ますでもなく、明人は水嶋シュウらしくとどめのような見解を述べた。
スオウは目に見えてがっかりと肩を落とした。
本当は明人だって分かりやすく素直にがっかりしたい。だが、水嶋シュウというキャラはそんな反応は許されない。なので、代わりに明人は水嶋シュウとして、更にスオウに追い打ちをかけた。
「ほら、どうした?早く帰るぞ。今日は帰ったら、明日の準備がある。」
「明日?」
「明日の始業式の後、学園祭の文化部向けの打ち合わせがあると言ってあっただろう?」
「そうだったか?」
違うと言ってくれと言っているような一縷の望みのこもった視線でスオウに尋ねられるが、あるものはあるし、言ったものは言った。明人だって、本当はそんな雑事を放り出して、明日という、主人公がついに学園にやって来るかもしれない運命の一日に備えたい。
しかし、冷酷無比で合理性の塊の生徒会副会長・水嶋シュウである以上、そんなことは出来ない相談であった。
「そうだ。」
希望を完膚なきまでに破壊し、明人は怜悧で澄ました表情で肯定する。
スオウはやれやれと言った様子で頭を掻くと肩を竦めて歩き出した。
「まあ、この忙しさもあと数か月の辛抱か……。」
「そもそも忙しいのが嫌なら、初めから会長など引き受けなければ良かったんだぞ。」
「シュウ。それを言ったら元も子もねぇよ。」
「ふん。」
この数か月で多少は板についてきた水嶋シュウという役割を演じながら、明人は親友のスオウと軽口をたたく。言葉少なに誤魔化しながらではあるが、スオウと軽口をたたくくらいまでは、明人にも水嶋シュウとして振舞うことが出来るようになっていた。
学園までの帰り道。二人で並んで歩きながら、明人は親友と主人公が幸せになり、自らもこの世界での自由を手に入れるため、親友の恋の応援の算段について思案していた。
思案に耽る涼しげな水嶋シュウとまだ夏休みを名残惜しんでいる藤原スオウ。
目を引く二人の姿に通行人たちは視線を釘づけにしている。
そんな通行人の中に、一人のとある少年の姿があったが、まだ二人はその少年の存在に気付く事はなかったのだった。