女神倶楽部3
導入したのは自動糸車だけじゃない。
自動機織り機もだ。
糸車同様、こちらの世界にも手動機織り機がある。
手足でバッタンバッタンと織るやつだ。
多分、合理性を求めるとこの形になるんだろう。
産業革命の端緒として有名なのが飛び杼だ。
古くからある杼(ひ。シャトル)という器具を
単純化簡便化したものである。
これで機織り生産量が倍になった。
職を失った旧来の労働者が暴動をおこしたぐらいだ。
そのせいかどうかはわからないが、
発明者は逃亡してしまった。
イギリスからフランスへ。
日本で購入できる織り機は、手織りのものにした。
自動機織り機はチートすぎる。
これでも、異世界の機織り機よりも機能的だ。
さらに、杼を魔導化した。
飛び杼を風魔法で置き換えたのだ。
突飛な話じゃない。
最先端自動機織り機は風力・水力を
飛び杼の代わりとしているのだ。
さらに、ゆっくりと、全体を自動化するつもりだ。
【糸素材】
この世界で糸とは、麻、毛の2種類。
綿は少なくとも王国では生産されていない。
僕は日本から綿の種を持ち込んで、
この世界に定着させるつもりだ。
絹糸も王国では生産されていない。
そのかわりに魔蟲のクィーンスパイダーという
人の顔ほどの大きさの蜘蛛がいる。
この蜘蛛の糸が絹糸のような光沢を持ち、
かつ防具に使われるぐらい頑丈で、
王国では超高級品で取引される。
僕はこの蜘蛛の家畜化を目指してみる。
まず、麻と木綿の生産から始める。
羊はちょっと門外漢だ。
日本でも羊はあまり頭数がいない。
それに、動画を見ても簡単には手が出しにくい。
羊の飼育は素人には難しそうだ。
汚れ仕事の嫌な人はここで退場だ。
日本なら、ここで殆どが退場になるだろう。
まあ、そんな人はこの世界にはいないが。
汚れ仕事と言っても、
かなりを魔導具化している。
耕作、播種とかは魔導具というか、
最近取り入れたトラクターでガーとやる。
成長は収穫まで~3週間だ。
そのあいだの病気や害虫は担当者が他にいる。
収穫だけは手仕事だ。
次に、魔蟲クィーンスパイダーはどうか。
この蜘蛛の家畜化を目指すと意気込んだが、
この魔蟲にお菓子やらドリンクを与えたところ、
物凄い勢いでむしゃぶりついてきた。
数匹を飼育場で飼ってみたところ、
外敵もいなくなったこともあり、
これまた凄い勢いで繁殖していった。
そして、糸を吐きまくっている。
夕方になったら、別室でお菓子&ドリンク。
すると、一斉に巣から飛び降りて駆け寄ってくる。
ここでドアロック。
その間に蜘蛛の糸を回収。
回収したら再びドアを開放。
早朝になると、蜘蛛が巣を張り始める。
この繰り返しで糸の大量生産に成功。
楽勝だった。
ただ、1匹の蜘蛛が1日で吐き出す糸は
せいぜい10mぐらいだ。
百匹の蜘蛛がいても1日千m。
これでは上着を1着仕立てることができるか、
微妙だ。
そして、現状では蜘蛛の大量飼育に成功していない。
せいぜい数百匹。
だから、糸も1日数千m。
でも、もともと高級糸。
それに外部に出す気がない。
というか、もともと女神様に着てもらおう、
と考えていたのだ。
蜘蛛の糸は全部、女神様の衣装に使うことにした。
この糸を扱える人は限られている。
まずは、麻と木綿で修練を重ねる。
そして、村内で人気を博した服を作れる人、
その人だけがクモ糸技能者の光栄に浴することができる。
◇
彼ら服関係者(だいたい、女8割、男2割)には
毎日、お菓子とエクササイズをさせている。
これは村人全員の義務だ。
というか、しばらくすると、これなしでは1日が
始まらなくなる。
世界が新鮮に光輝いて見えるようになるのだ。
ある種の脳内ドーピングをしてる感じだろうか。
このように、服に関する仕事に関わっていくると、
高確率で服関係のスキルが生じてくる。
服だけじゃない。
僕が服のカタログを持ち込んだら、というか、
女神様の愛読書として、
通信販売のカタログを持ち込んだら、
それに興味を持った人多数。
だから、自分たちのカタログを作ることにした。
持ち込んだのは、マックとかプリンターとか製本機。
例によって、これらは魔物化する。
マックなんか、おねえ口調になった。
この業界、多様性の人が多いという噂はある。
でも、それにならわなくても。
基本的に女言葉なんだけど、微妙に違う。
わたしじゃなくて、「あたし」
あなたじゃなくて、「あんた」
仲の良い人はちゃん呼ばわり。
仲がいいとはコレッポチも僕は思っていないけど、
僕のことはケンちゃんと呼ぶ。
というか、ケンちゃ~ん、と若干粘っこく呼ばれる。
最悪、語尾にハートマークがつく。
悪寒が走るのだが、それは必死にこらえる。
小指を立てて話す。
マックに小指?
というなかれ。
画面隅に小指が表示される。
消せない。
マックを立ち上げる。
すると、
「あらぁ、おはよぉございますぅ」
との挨拶から始まる。
基本女言葉なのだが、語尾が微妙に伸びる。
画面隅には小指が立っている。
そして、ハートマークが画面に点滅する。
SAN値が削られる。