女神倶楽部2
よし、女神様の言質はとった。
では、どこに建設するか。
そして、運営形態は。
僕に深謀遠慮があるわけじゃないんだけど、
王国ってあんまりいい国じゃない。
貴族や教会は横柄だし、街は臭いし。
それと、揉め事が多すぎる。
だから、こっそり拠点を作ろうかと考えている。
それが女神教会(仮)だ。
村だと駄目だね。
下手に有名になると、有象無象が押しかけてくる。
だから、川向うに目をつけたわけ。
ほぼ、人類未踏の地だから。
王国とレベロン川の間は人類の生存が難しい
荒野が横たわっている。
そして、そのレベロン川。
常時数百m、雨季には1kmを超える川幅。
洪水も多い。
フライングピラニアもいる。
川近辺も人の住まいにはむいていない。
そのレベロン川を超えると、
実は肥沃な土地が広がっている。
治水を行って川を治めれば、
あの土地は非常に有望な土地に生まれ変わる。
水にしても、川もあるし、
伏流水が地下を通っていることが判明している。
女神様別荘の湖のような池。
そこへ流れ込む川がない。
そこから流れ出す川もない。
どこから水が来て、どこへ水が向かうのか。
それは伏流水だったのだ。
伏流水がたまたま地上に顔を出した場所。
それがあの池であった。
そして、考えるより遥かに豊かな伏流水が
直接レベロン川に流れ込んでいる。
それが、あの川の流水量の多い理由であった。
伏流水のほんの一部を表面にだすだけで、
水問題は解決する。
森に行きさえしなければ、
魔物や魔獣は殆どいない。
王国からの攻撃は荒野や川で防ぐことができる。
あるいは川に防衛ラインを引けば、
容易に敵を撃退できる。
背後には深い森が横たわる。
森の広さはそれこそ人類未踏だ。
そこに女神教会を作る。
ああ、その名前はまずいか。
女神倶楽部とかにするか。
なんだっていいけど。
女神倶楽部の本部は地球の教会を模する。
ギリシャのサントリーニ島にあるイア村
陸屋根の家は土魔法と相性がいい。
要するに作りやすい。
女神様の家はこぢんまりした教会風建物。
あの青いドームの家。
その門前町に様々な店を設置する。
原則戸建て
壁は白。
窓枠も白。
外扉も白。
折りたたみ雨戸は青色。
つまり、基本的に家はキャンパス。
庭がメイン。
そこに門前町を作ろう。
お菓子売り場、喫茶店、レストラン、
そして服屋。
日本で服を買う。
女神様にはそれをきてもらって
ファッションショーというか、
服を着て喫茶店とかでお茶飲んでもらう。
それだけ。
【服の生産】
服を日本から持ち込むだけでは面白くない。
やはり、自分たちの個性を出したい。
既製品から脱却したい。
だから、募集をかけてみることにした。
服を作ってみないかと。
作る場所は女神倶楽部だ。
そして、彼ら・彼女らに女神倶楽部、
そして女神様の信者を作っていく。
その中から希望を募る。
女神様の服を作ってみたいか、と。
【服の生産は大変】
衣服の生産は代表的な労働集約型産業だ。
つまり人手がいる。
これだけ時代化が進んでいるのに、
やはり人件費の安い国生産を移していく。
それが昔ならばもっと大変で、
女工哀史とかが問題になったりした。
流石に、過酷な労働をこの世界の人々に
課すわけにはいかない。
僕は現代日本から転移してきてるからね。
そこを抑えつつ、服の生産を考えてみる。
服の生産にはまず糸から考える。
王国にも古来から糸車はある。
これは地球と同じだ。
おそらく、誰が考えても糸を紡ぐには、
糸車の形になるのだろう。
この糸車、構造も糸の紡ぎ方も非常にシンプルだ。
ところが、実際にやってみるとこれが難しい。
日本では糸とり3年、織り3日と言われるらしい。
それほど難しい作業で、
10gの糸を紡ぐのに約1時間半かかる。
初心者では約3時間かかる。
毛糸の1玉。
日本でよく売られているのは40gだという。
つまり、ベテランでも毛糸の玉を紡ぐのに6時間。
1日2玉しか紡げない。
毛100%の場合、1玉の糸の長さは約100m。
(毛の軽さによってかなり変動がある)
セーターを編むのに必要な糸の長さ。
これは1000m以上。
約10玉のコットン毛糸の玉が必要。
1玉40g✕10玉。
400gのコットン毛糸が必要。
糸紡ぎに10g/1時間半かかるとする。
400gならば40倍、60時間かかる。
1日10時間働いたとして、
セーター1つに必要な糸を紡ぐのに、
6日間かかる。
さらにここからセーターを編んでいくわけだから、
セーター1つがいかに高くなるか。
中世で服が高くなる理由だ。
ここに僕は歴史的な機器を投入する。
まず、糸紡ぎ機。
糸車をもっと効率的にする。
まず、ジェニー紡績機。
糸車をたくさん並べたものだ。
続いて水力紡績機。
水車を動力としてより強い糸を水力により
紡ぐようにした。
このジェニー紡績機と水力紡績機を合わせたもの。
つまり、水力により多数の糸車を一度に紡ぐ。
これがミュール紡績機。
このミュール紡績機は設計図も動画もある。
これを異世界に持っていった。
つまり、産業革命を起こしちゃうわけである。
流石に、あらかじめ女神様の許諾を得ていた。
当面は村だけで使うこと。
極力、流出を防ぐこと。
これが広まれば確かに服はやすくなるだろうが、
大量の糸紡ぎ女の職が失われる。
実際、服がらみの産業革命では、
工場とかで暴徒が騒ぎを起こしたりしている。
暴徒は旧来の労働者の失業者たちだった。
まあ、女神様に理解していただいたのかは
甚だ心細い。
だって、
『善きにはからえ』
だけだったからね。
返事が。
むしろ、自分の世界でもどんどん服が生産できる。
しかも、地球のようなハイモードで。
そっちのほうに意識がむいていて、
バリバリの産業革命推進派になっているのだ。