EP5 転生リバースの条件
______オラ新藤麗美十六歳の路上ライブ活動は、ここまでは順調そのものだ。
美少女JKが、バニーガール姿で歌うOnemanロック。Youtube配信の効果で多くの海外ファンを取り込み、美少女JK Youtuber Rocker として幸せな毎日を送れていた。
お世話になっている私立養育施設<ウサギの家>へも、投げ銭で稼いだお金の半分(約1,200円-2,300円)を寄付して、秋山看護師を半ば脅して借りた借金は、ほぼ返済が近い。
これはyoutube様のお陰であって、オラの路上ライブは海外でも評判になって来ていた。
気分をよくしたオラは思った。
「この際、オーストラリアのメルボルンで、路上ライブもええにゃ」
などと思いつつ、予言を分かりにくいようにして作った歌詞と歌は、その出番が無いかに思えたクリスマスイブの夕方。
路上ライブで恒例になった千葉市の某私鉄駅前は、今日も帰路を急ぐ人達で溢れていた。行き交う人々は今晩、家族と幸せなクリスマスを祝うのだろう。
そんな雑踏にも、オラのライブを待っている人もかなりいたのは有難い。中には若けぇカップルも沢山おるし、外人さんの姿もチラホラあった。
Hey cuty bunny girl. you so cool!
Fine thanks boy and girl. But please give me some money.
「外人さんも逢引きかや、ええなぁ。オラもいつか経験でけるやろか?」
超絶美少女JKと言う自覚が、99年間のババの悲惨な人生経験に上書きされて、自分が超モテているとは思えなかったのだ。
麗美が一言声を掛ければ、男子は100%落ちるというのに。
「そのへんは、オラは奥手でなぁ」
______オラは捨てられた6歳まで、クリスマスを楽しんだ事がなかっただ。施設<ウサギの家>に入ってから初めて経験したクリスマスは、それは涙が出る程嬉しかった。施設長から貰ったサンタの長靴が、今でも大切に部屋に飾ってある程だべさ。
「生きているからこそ、喜びを感じれるものさね。オラは転生して初めてそれに気づかされただ」
そんな暖かい想いを胸に、オラはいつものように路上ライブで歌い始める。もちろん、美少女アイドルJKの言葉で。
「今日は、私の嬉しかった想いを込めたクリスマスソングです。皆さん、幸せな気持ちを大事にしてね」(ウインク付)
おぉ麗美さまぁ~!
今日はサンタバニコスがカッケー!
セクシー!
ヒュゥ
ヒュゥ
結婚してぇ~
『あんた女子だろ!』
The sun is shining, the grass is green,
The orange and palm trees sway.
There's never been such a day
in Beverly Hills, L.A.
But it's December the twenty-fourth,—
And I am longing to be up North—
I'm dreaming of a white Christmas
Just like the ones I used to know
Where the treetops glisten.........
オラはビング・クロスビーのホワイト・クリスマス冒頭から歌い始めただ。
歌い終わった途端、視界が暗転したかと思ったら、オラは例のセーブ・ポイントで目覚めただ。早えぇ話がババのバニシング・ポイントと同じ場所だ。
「「おぉ、麗美様がまたイリュージョンで消えたぁ! 麗美様ぁ!!」」
「なんで今、転生リバースなんよ? オラは何もしてねぇだに」
ふっ
______「その理由を訊きたいかババよ」
「おぅまた便所紙か、そりゃぁ訊いとかんとな、オラは時空警察に逮捕される身でよ。もう歴史を変えるなと大目玉を食らったぞよ」
ふむ、時空警察どもか。
「その話は置いておいてだな、ババのコスプレロックは中々のもんじゃ。ワシのワイフなんぞ、Amasonでバニコス買ってノリノリで普段着にしとる位じゃぞ」
イラ
イラ
「そこは置くな! 便所紙、お前結婚しとるんか!相手はアンネか? それにバニコスまで買ったんかい!」
「こ、この愚か者ぉ! 神のする事に時空警察なんぞは干渉できん。治外法権って知っとるやろが。ババはいい事をしたのだから、気にせずババペースで予言を続けるがよいぞ」
『なおらんほーけー?』
ちげーわ!
「すかすオラが逮捕されちまったら、折角の薔薇色の人生がウンコ色の人生に代わるやろが。オラはもう予言はせんと、時空警察に誓わされたんやぞ」
「ふむ、このタワケは忘れておるようだ。ババは歌詞に予言を混ぜ込んだのだろう? だから時空警察の出番はない。存分にライブを続けることじゃ。では、さらばじゃババ」
.......し、しまった!またやらかした。
______ちょっと、ちょっと待ってくんせぇ。
「オラ、まだ転生リバースの発動条件を訊いとらんがなぁ」
と叫んだ途端、99歳ババはイリュージョンでまた駅前に出現したのだ。
「げぇ、ババが戻って来た!」
新藤麗美の出現とババの出現では、同じ場所でもインパクトが違うのだ。それは同じバニコスでもだ。
しかし99歳ロックババは、予言で千葉県民を地震津波災害から救った英雄である。
「し、失礼しましたぁ、予言変態ババ様ぁ~」
「謝らんでええ。ルックスはええに決まっとる」
オラは心を切り替えて、世界の大事件を歌詞にした新曲を披露しただ。
「Hey オラの新曲<Look Out>ルッカ―じゃぁ。オラの魂の叫びを訊き、歌詞の意味を理解するんじゃぞぉ」
おおおぉぉ!
______それは、いつもとは違うババの焦りにも似た迫力のシャウトだった。
オラが披露したのは、ヨーロッパで起きる大規模テロの予言歌。
しかし予言とは言わずに、新曲で通す腹である。
『これなら、時空警察の出番はねぇだ』
迫力のボーカルとギターテクニックは観衆を魅了し、同時LIVE中継もyoutube上に流れた。
この不思議な歌詞はSNSでも大きく取り上げられ、メッセージ解読で色々な意見と解釈で溢れる事になっただ。
「千葉を救った予言ババの歌詞だから、何かメッセージがある筈だ」
と、またまた月刊誌NUに様々な解釈が掲載されたのだ。
オラの歌詞の中に日付と時間、場所が隠されているのだけんど、なかなか正解に辿り着く人はいない。
それはそうだろう。正解はオラしか知らんし、時空警察に悟られんようにしたんじゃから。
______人間の中には予知夢を見る事が出来る、稀な存在がいた。
イギリスの青年トニー・アンダースンは、見事に日付を当てたのである。
超常現象WEBサイトにその予知夢が掲載されるや、大きな反響を呼んだが、所詮、売名行為の夢だと冷めた目で見る者も多かった。
オラはその情報を知るや、流れるような得意の英語を駆使してトニーをフォローしてやっただ。
これが真実性を増す結果となったのは、日本国千葉県の大災害を予言し、一人の死者も出さなかったからだ。
すると英国情報局Mi-7が、オラの歌詞をスーペーAi<チャールズ・MarkⅡ>で解析、トニーの予知夢と日付が一致したのである。
「よっしゃ! これでテロは阻止でける!」
それからと言うもの、気分をよくしたオラ99歳変態ババは、全快バリバリで路上ライブで歌いまくった。
『これで多くの人々を救えるかもしれん』
ある日の夕方ライブで、<ケイコの夢は夜開く>を歌い終わった途端、オラは転生した新藤麗美に戻っていた。
99歳ババとライブの時間がシンクロしているようで、また大歓声で迎えられたのだ。
「麗美様のイリュージョン最高!」
拍手の雨あられの中、オラは深々と腰を曲げながら考えただ。
『ええ事をすたからか? すかす今回はオラのせいでもない筈』
早速ネットで、過去のテロ事件を調べてみると、ヨーロッパ各地で同時無差別テロが未然に防げたとあった。
あの予知夢の青年トニーと、なんとオラの名前まで掲載されていた。
「これは、ひょっとかしてチョー不味かった?」
◇大鎌の男(チリ紙)◇
______すると黒い霧が立ち込めると、それは次第にローブを纏ったような人型になっていった。
「お前か、新藤麗美十六歳は! 探したぞ」
んだ。
オラは便所紙とか、時空警察に会っているので、何があっても動じないのだ。
その大鎌を持った黒いローブの人型は、とても不機嫌だった。
「お前は自分の仕出かした事を、全く理解しとらんようだな」
「なんや藪から棒に! オラはほんの通りすがりみたいな美少女JK路上ロッカーでんがな。オラ、それしかしとらんぞよ」
「全く糞神といい、時空警察までもがお前を甘やかすお陰で、儂は大迷惑をしとるのが分からんか」
「オラ、おまはんなんぞ知らんがな」
「ならば訊いて驚け、儂は死神王である」
はぎゃ?
「顔色は悪りぃし、まるで質の悪いチリ紙じゃな。もしかして、便所紙の親戚か?」
「たわけ!」
便所紙と時空警察。新たにチリ紙が加わって、新藤麗美とババの路上ライブにウンコ色の暗雲が立ち込めて来たのだった。