表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

EP4 転生リバース99歳ババの初路上ライブ


______ババの準備は、とうに出来ている。

 十六年前に転生した、新藤麗美(しんどううるみ)の演奏曲とテクニックは、転生リバースしたババの体に、脈々と受け継がれているからだ。着ているものは寝巻とサンダル。ミイラのように細く99歳ババの上に、見てくれは最悪と言っていいだろう。


 オラは人通りのある千葉県の某駅前付近を選択。しかしババの姿では、演奏前は流石に緊張してしまうのだ。

「訊いてくれるだんべか。えぇい、ままよ! (ばば)は度胸!」


 借りた15,000円と今日のおまんまの為、オラは得意のガンズ アンド ローゼスをギターで弾き、ババとは思えない迫力の英語で歌い始めた。

乾電池駆動の10wアンプはしょぼいし、オーバードライブの音にパワーはない。


 しかし99歳のババが寝巻姿で、圧倒的な演奏とボーカルで披露したガンズ アンド ローゼスは、行き交う人の好奇な注目を浴びた。

 おおぉ!

  ババかっけー!

   げぇミイラが歌っている!


 たちまちオラを囲む集団が出来、投げ銭用に用意した仏壇の鐘には、10円、50円、100円を入れてくれる人がいた。

チャリン 

 チャリン

  チーン

 小銭だろうと銭は銭である。

オラは、投げ銭があるたびに「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」とお礼を言うと、爆笑されるのも案外心地良かった。


 大きな話題を呼んだ初日は、大成功と言っても過言では無かったが、人だかりが出来たせいで、警察(さつ)に即刻退去させられちまった。オラは以後、謀千葉市役所に届けを出すようにすた。


______受付

「あの~、おばあさんが路上ライブですか? 三味線とかで?」

「うんにゃ、エレキじゃよ、エレキ」

窓口の若い女性職員が、目を丸くしとったわい。


 銭を効率良く稼ぐには演奏時間帯が限られるので、午前より夕方の一時間程度の路上ライブである。

「ふぇ~千葉県民が、ロック好きだったのは幸いじゃったのう」


今は生活費をかせがにゃならんオラは、毎日投げ銭目当てのライブを始めたのである。

曲はガンズ、God Unknows、そして締めは<ケイコの夢は夜開く>。これはオラの鉄板で、絶対に外せにゃい。


 駅前の帰宅時間に毎日やってりゃ、地元謀千葉新聞の取材を受けたりした。

ギャラは発生しないけんど、オラの宣伝効果はバッチ来いで、次第に怖いもの見たさ、SNSで知ったギャラリーは増えていった。


◇転生リバースの副産物◇

 新聞??

______ある時、オラには十六年間の未来を知っている事に気づいた。

これから起きる大きな事件は、新聞とテレビで見て知っているのだ。

実は、今から一年後に大きな地震が房総半島沖で起き、津波の影響で死者も出た大災害だった。


◇ブルガリアの盲目の予言者、ババ・ヴァンガのようなオラ◇

______オラは新聞取材の折、まだ若い女性記者に、一年後に大きな地震が起きると忠告すた。それも月日と時間までもだ。

当然、怪しいババの妄想予言として相手にされんかったワケじゃが、警告はしたしとオラは路上ライブをする毎日を続けたんじゃ。

「いくらオラが天才だども、地震災害を止める事はでけんからのう」


 そんな予言が、謀月刊NUの三下編集長の耳に入る事になる。

オラは詳しい被害状況を話してやると、二か月後には総力特集として掲載されたのである。

「本当の事を言って原稿料が貰えるとは、これは有難い事でよ。犠牲者が出る事だし、これはもっと言わんとあかん」


 NUに掲載された99歳予言ババ。それだけでもオラの肩書が増えた。

毎日の路上ライブでは、最後に必ず大地震が起こる事を付け加えた。

そのお陰か、千葉県民に万一の場合に備えた防災意識の高揚に役立ったのである。


______オラの路上ライブでは、<謎のロッカー予言ババ>と嬉しくもない名前が付いてしまった。

「やっぱりおなごは......見た目じゃのう。はよ新藤麗美(しんどううるみ)に戻りてぇもんじゃ」


 これでは拙いと思ったオラは貯めた投げ銭と原稿料で、通販のバニコスを買ったのである。

向こうで着慣れたバニースーツに網タイツ、ハイヒール姿は、インパクトがあり過ぎて、<謎の変態ロッカー予言ババ>と、余計に悪いネーミングになってしまったが、人命がかかっとるオラはへこたれんのじゃ。


「せっかく大金を払って買ったんじゃ。オラはこのスタイルでいくぞよ」

バニーガールで路上ライブを開始すれば、嗚咽が混じった声援はあったが、一部の男性からは熱視線を感じたのよさ。

「まぁ貧血を起こした人もおったけんど、ファンはありがてぇありがてぇ」


 オラは投げ銭生活で、案外生活費を稼ぐ事が出来ていた。

そんなこんなで、オラが予言した地震発生日が近づくと、マスコミが急遽緊急特集を掲載し始めたのだ。


______<バニコス変態ババの予言など当たるものか>

オラの予言を信じる人は約50%と高かった。あの変態ババの姿だけを見た者は否定派だ。


いよいよ地震発生日当日______時間が刻刻と迫る。

信じていない者も、時間が来る前には高台に避難を始め、市の防災課も万一に備えて防災用品の確認に追われていた。

デマと言われても、小学校、中学校も急遽休校となったのは、オラもありがたかった。


______予言した時間が来た。

 ガツン 

   ドグァァン

いきなり突き上げるような衝撃と、轟々という地鳴りが聴こえた。

「やっぱり来た!」

オラは一番安全な場所を知っているので、毎回そこに避難するように言って来ている。

これが良かった。多くの人が騙されたと思っても避難してくれたのだ。

 すぐ津波が来て家と道路が飲み込まれていった。サイレンが鳴り響き、オラも市民もただ見守る事しか出来ない。



______二時間が過ぎた。

 津波はあらゆる物をはぎ取り飲み込んで、海に戻っていった。

幸いにも、市民の誰一人として犠牲者は出なかったのである。

非難していた市民も市の防災課も、口を揃えて言わずにはいられなかった。

「あのババの予言が的中した」

 と


 その日、オラは一躍英雄ババとなった。

復旧には時間と多くのボランチアが必要になる。

しかしオラの予言で助かった人達は、喜んでボランチアに名乗りを上げてくれたのだ。

加えて他県からもボランチアの申し出が沢山あったことで、オラは改めて日本人の優しさを再認識する事がでけた。


 オラは6歳で捨てられた時、両親を憎み人間なんてと思った事があったけんど、私立養育施設<ウサギの家>の優しい施設長夫婦のお陰で、人間を信じる事がでけたのであった。


「はふぅ、転生した知識と経験のお陰で、たくさんの命が救えた。これだけは、あの糞便所紙に感謝せんとな」


◇セーブ・ポイント◇

______その時、またあの便所紙が現れた。

「ババ、お前がいい事をすれば、ここがセーブ・ポイントになるんじゃ。転生先に戻れるぞ」

「なんじゃ? またピッチピッチの新藤麗美、十六歳に戻れるのかえ?」

 うむ。

「すかす、またババに戻っちまう事も?」

「お見込みの通りじゃ。理解したならば逝け」

 おぉ、まだ訊きてぇ事がぁ! 待てい便所紙ぃ!


新藤麗美(しんどううるみ)

______便所紙の簡単な言葉で、オラは転生先に戻っていった。

オラは戻るとすぐ、あのフルセットで15,000円のギターを手にすると、そのギターに今まで以上に温もりと愛着を感じるのだった。

「おめぇはオラの事、何でも知ってるんだなや」


 また新藤麗美に戻っても、時間は転生リバースした時のままだった。

オラはババがやっていた千葉県謀駅前で、路上ライブをする事にした。

時間もババと同じ帰宅時間の夕方である。


「あぁぁ! ワンマンバンド<The Cuty Bunny>ちゃんが来たぁ」

 すると意外な声も耳にしたのだ。

「でもあのバニーちゃんさ、十五年位前にも居たよね。予言変態ババだったけど、俺達の命の恩人だったあの人、いったいどこへ行ったんだろう?」


 オラはセーブ・ポイントを残して突然消えたのだ。災害を予言した功績で、県も市も関係者がオラをいろいろ探し回ったと言うのだが、その本人は目の前に居る。


 問題は、ババとオラ麗美の曲が全く一緒だと言う事だ。

「おい、ガンズとGod Unknows、ケイコの夢は夜開くまで、何もかも一緒だぞ」

 う、これは拙いきゃも......


 しかしそんな心配は必要なかった。

「馬鹿だな。麗美ちゃんは、あの変態予言ババさんを真似てるんだよ。バニーガールのコスもそうさ」

 あぁ成る程!

「すると......ババの娘さん? そりゃねぇわな」

予言ババと今のオラは、容姿容貌に月とヒキガエル程の差があるからだ。


「ほっ、何とか誤魔化せたけんど、麗美では流石に予言は出来んのじゃ」

ついさっきの出来事だと言うのに、オラは何とも妙な感じである。

「転生リバースはこれで終わったとは思えん。セーブ・ポイントと便所紙が言っとった以上、また起こるんだろう。それまでにライブ活動をしながら、この先の事件や事故を覚えておく。オラは出来る事をするだけじゃが、いつ起きるか、それが分からん」


◇ワンマンバンド<The Cuty Bunny>と予言ババの弊害◇

______「ババの時はええ事をしたから戻れた。とすると、新藤麗美(しんどううるみ)の世界では、何をすると逆リバースするのかえ?」


それが分かれば、転生リバースを回避できると考えたワケじゃ。

すかす、どう思い出しても逆リバースする心当たりがにゃい。

「共通するのはRock? バニーガール?」


 いろいろ考えても、答えは出ない。

オラは駅前の路上ライブを、コツコツとこなして行くだけだ。

ある夕方の路上ライブの最中、オラの演奏を訊いていた観衆が騒ぎ出した。

「おぉ、なんだアレは! 凄い演出だ」

 およよ?


 なんの事か分からんオラ。振り返ると黒い渦が背後にあっただ。

そしてオラは、その黒い渦に吸い込まれてしまっただ。

「げぇイリュージョン ライブかよ! ワンマンバンド<The Cuty Bunny>ってすげぇぞ」

 鳴り響く拍手と喝采の声が聴こえたが、オラの姿はギター器材一式と共に消失したのである。



◇時空警察クロノパトロール◇

______「こいつか、歴史を変えた張本人は」

「Yes デスモンド局長。鶴田亀世(かくたきよ)99歳こと、新藤麗美(しんどううるみ)16歳で間違いありません」

「ほう、しかしこれが同一人物とはな、信じられん」

 ほへ?


「おまはんた、いってぇどこの誰ぞな? あっ、オラ分かっただ! 超絶美少女JKバニーガールを拉致誘拐したんか! やが残念やったな、オラに銭はねぇ。分ったんなら帰らしてんか」

 状況を全く理解できていないオラは、妙なバイザーをかけ、銀色の制服を着た男共に囲まれていた。


「なんだ? この品のない喋り方は。しかしガンズ、God Unknows、 なんと言っても<ケイコの夢は夜開く> これだけ証拠が揃えば知らぬとは言わせんぞ麗美!」

オラ......

「デスモンド局長、こ麗美は、まだ理解が及んでいないようです。私から説明をば」

 うむ。よかろう。


「......と言うワケで、ババは歴史を変えてしまった。本来なら、あの地震で大勢の命が失われる筈だった。ババはそれを救ってしまった為に、時空世界線のバランスに亀裂が入った。よってこれは最終警告だ。もう二度と歴史を変えるな」


 なるほど......オラの予言で多くの千葉県民を救った......それでこいつ等<時空警察>とやらが。

要するにオラが二度と予言と称して、人命を救わなければええのか。

「分かったがな。オラもう予言はせん。オラは路上ライブで投げ銭を稼ぐ日々を楽しめれば、それでええ」

 よし。

 ヒュン

それをオラが口にした途端、元の駅前に戻っただ。


 おぉぉぉ

「すげぇイリュージョン!!!」

消えていたのは時間にして2-3秒だったらしい。オラは拍手喝采を浴びて、その日の路上ライブを終えて帰宅したのだった。


______施設に戻ったオラは、あれこれ考えていた。

この十六年間で知った、世界の悲惨な事件はまだあるからだ。

「予言せな多くの人命を救えん......けんど歴史を変える事は拙いじゃろうな。すかすオラは」


『どの道、オラが転生リバースしなければええが、アレは<やばとん>みたく突然やって来るからにゃ、オラにはどうにもならんがな』

 あの便所紙が言ったには、ええ事をしたから戻れた......すかす人命を救った結果として、時空警察を呼んでしまったワケじゃが。

「矛盾しちょるがな」


 はっ?

「もしや新藤麗美の世界で、悪い事をすると逆リバースが起きる? それなら簡単じゃぞ。オラが悪い事をしなければええんじゃ」


______こっちの世界でも、毎日凶悪な事件が世界中で起きている。

特に酷いのは、欧州で9.11みたいな大規模テロ攻撃が起こった事だ。テロで失われた人命は3,000人にも及んだのである。

「オラが出来る事は、毎日、ロックで歌う事だけさね。すかも逆リバースが起きなければ、予言はでけんのじゃ......そ、そうじゃ!」


オラは思った。

『転生リバースがいつ起きてもええように、オラの作った歌詞に予言を書き込んで歌っても、それは歌詞であって予言じゃねぇのでは?』

善は急げとばかりに、オラはRockの新曲を作り始めただ。それは転生リバースが起きた万一の為用なのだ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ