EP1 ベッド上の99歳ババ亀世(きよ)の願い
主にオーストラリアで活躍しているワンマンバンド<ジョージ・上川>さんに触発されて書きました。
このふざけたタイトルでドン引きしたあなた。この作品は読み手を選んでしまうと覚悟してます。一部の読者向けかなと思うぞよ。
___Time
2023年11月の現代日本は、やっと肌寒くなり師走の足音が、もうそこまでやって来ている。
___Place
ここは千葉県内にある謀総合医療センター四階ICU。
「秋山さん、ICUの患者さんはどう?」
医師が看護師にそう訊くのは、ICUの患者さんは急変する事が多く、常に注意が必要だからだ。
「あ、はい。もう一度すぐ見て来ます」
「頼むよ」
___Occasion
シャーララ
秋山看護師が静かにカーテンを開ける。
秋の差し込む柔らかい朝日と、慣れてはいても消毒薬の匂いがプンと鼻をつく。
ベッドの上には余命いくばくもないだろう老女が一人、朦朧とする意識の中で何かを呟いていた。
「計器は一応正常値だけど、大丈夫そうかな......分からないわね」
老女の唇は、繋がれた心電計のピッ ピッと響く電子音に合わせて、まるで口を合わせているように思えた。
「え? 聴こえてるのかしら」
若い秋山看護師が良く訊こうと耳を近づけると、それがある歌謡曲だと気付いた。
「この歌は......」
十五 十六 十七 と ほぉ オ ラの じん せい くら かった は ぁ......。
歌詞は途切れ途切れで、酸素マスクをつけているせいで、秋山看護師が訊き取れたのは最初だけだった。
「随分古い歌そうだけど.....あっそうだ、確か金成禿照院長の十八番、カラオケはうまくもないけど自慢気に歌ってた、1970年<ケイコの夢は夜開く> だわ。無意識で歌ってるなんて、亀世さんは余程つらい人生だったのね......可哀そうに」
その歌は大人気歌手の、宇多田ピカルの母親のヒット曲だった。
___Who
その老女の名前は鶴田亀世=結婚も出来ずただ一人、安アパートで突然昏睡状態となって、ICUに横たわっているのだ。
『オラの命はここまでやな。まぁそんでも長生しちまったもんさね』
亀世は生の終わりを覚悟し、人生を回想していた。
___Wish
『何もええことにゃかったオラの人生。男に騙された事も何度かあったしな。もすオラに来世があったにゃら、出来んかった事一杯して、うめぇもんも一杯食って、美少女に生まれて楽しい人生を過ごしてぇ』
と願いながら。
『子は親を選べねぇ。べっぴんでもねぇオラが、それを恨んでも今更仕方がにゃぁが。小説だとよ、げーむの美少女悪役令嬢に転生して、これまた本命美少女ヒロインを足蹴にして、はむさんど王子様と一生ムフフだがにゃ。まぁオラは乙女げーむはした事がにゃぁけど、あの世へ行く前に楽しい妄想くらいしてもええやろが南無阿弥陀~』
___God?
ところがなんと、なんと世に転生の神はおったのである。
その神は亀世の夢枕に立った。
<あー、鶴田亀世。世の中そんなに甘くはない>
『誰じゃ? お迎えの使者ならオラ、国宝級のイケメンがええが、なんかジジくせぇ加齢臭がするでよ』
<くそたわけ! 夢枕じゃぞ。何が美少女令嬢に転生希望だ! 馬鹿も休み休み言え>
『オラ、ここんとこずっとベッドで休んどって、もうじき永眠の身じゃが』
<......屁理屈を言うババだな>
「屁は理屈を言わんぞよ」
<あのな、そんなものは応募者殺到でインフレパニック、もうパンパカパンなのだ。送る異世界は超満員、じゃが現代転生なら、まだ空きがあるぞよ>
......。
『あや、おまはん紙さまかい? そんならオラ、せめてピッチピチの美少女に転生して、超リッチな家庭でお願げぇするでよ」
「神に向かって紙とは! それにババ、お前なんと贅沢過ぎる願いをする! 無礼千万過ぎて願いは50%オフだな。しかしだ、オマケでババの記憶付でどうじゃ......もう記憶を消すのも面倒でな。神って本当にブラックなんじゃよ。わしも転生したいくらいじゃ」
『そんなもん、オラは知らんがな。いっそトイレットペーパーにでも転生して、便所の水に流されたらええぞ』
「はよ逝ってしまえ糞ババァ! 転生ぃ~ はぁぁぁ!」
亀世の意識は跳んだ。その魂と共に。しかし果たしてババの願いは叶うのだろうか。
......あっしまった。
「頭に来てワシ、ババに肝心な事を......」
ババからのお願ひ。ご意見、ご感想ヨロじゃ。