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救済のGemini  作者: きのうちえる
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第1話 おわりのはじまり⑤

「…なにか食べましょうか。少し歩くとこの先に町があります。体調はいかがでしょう?」


気分転換もかねて、と二人が沈んでいるのを察し胡菟コトが提案する。

兄弟もアイアンもそれに同意する。

あちらで死んでいても、この世界ではなぜか生きているためにどうしても腹は減る。

今は一体何時ぐらいなのか。

感覚にはなるが、昼時はとうに過ぎているのだろう。


「こんな状況でも飯は食えそう。オレって思ってたよりだいぶタフ」


「右に同じく。ひとりじゃないってデカいよな」


「それよな~」


ごはん美味しいといいなあと紀一ノリカズが呟く。

強がってはいるが、お互いに不安を隠しきれてはいなかった。


「さっきの本以外にも参考にしたものってあるの?」


真二シンジが訪ねる。その問いに胡菟がうなずく。


「ええ。本や、石碑や、絵など…でも殆どの物が今の神によって回収されてしまい、手元にあるのは先程の一冊くらいですね。それで異世界の人間が現れるであろう場所を特定し、毎日見に来ていました」


「へえ。で、現れたのは何年ぶりくらい?」


「アタシ達が確認し始めてからはあなた達が初めてよ。150年ちょいくらいかしら」


「ひゃくごじゅう!?」


紀一は目を見開く。その横で真二が怪訝な顔をしている。


「さっきも500年とか言ってたけど、因みに1年って何日?」


もしかしたらこの世界の住民は寿命がかなり長いのかもしれない。

だがアイアンも胡菟もせいぜい10~20代くらいの見た目であり、その歳で500年というのは幾ら何でも割に合わない気がした。

となると自然に考えられるのは1年の日数が短い可能性だった。


「日数ね、確か調べてた奴いたわよねえ?もう決まったのかしら」


「調査中の方にお会いしましたね。その時には確か350~370日くらいで再調査中と仰っていたような…」


え゛ッと真二が低い声で動揺する。


「オレ達の世界では基本365日で1年だけど…ん?なに?どゆこと?」


兄はイマイチ理解が追い付いていないようだった。弟の方は口元を引きつらせながら二人に問いただす。


「えっと…つまり、ココはオレ等にとって異世界で、二人は人間じゃなくて、更に500年生きてるってこと?」


もはや真二も自分が何を言っているか分からなかった。ただ箇条書きのように得た知識を声に出しているだけだ。

笑い飛ばしてくれたら何と気楽だったろうか。

その思いは通じず、アイアンも胡菟も感嘆の声をあげる。


「そうですそうです!」


「思ったより話が早くて助かるわあ」


その反応を受け、真二はパチンと目元に手を当てる。


「…マジ?」


「え?そゆこと?嘘偽りなし?え?情報量多すぎない??」


「私たちもゆっくりお話していこうと思ったんですけど…お二人の受け入れが早くて」


「まあ、それは悟り世代とういうか現代っ子だから…じゃなくて!」


真二がまた頭を抱えだす中、紀一は錯乱しつつも言葉を返す。

次の発言をしようと「じゃあ…!」と接続詞を声にした途端、先導していたアイアンがくるりと振り返って彼の顔前で手の平を止めた。


「一旦、そこまで。もう町が近いわ。また続きは後で…」


「そうですね、誰が聞いているかわかりません。…詳しくはまた説明しますが、あなた達は人間と気付かれないよう振舞ってください。見た目ではわかりませんから、反応や発言に気を付けていただければまず問題はありません」


「この期に及んでまた色々いうじゃん…」


「…もう好きにしてくれ……」


兄弟は空腹を通り越して再度ぐったりとしてきていた。

ここまできたらもうなんでも良くなってきてしまったのもあるかもしれない。


「これだけは分かっておいて。アタシ達はアナタ達の味方よ。絶対に」



言葉通り人里に近づいてきているのか、パラパラと人影がちらつく。

分かりやすく獣の様な耳や尾の生えた者、肌の色が淡い青や緑だったり、頭部に大きな花のようなものが咲いていたりと一目で自分たちと異なることが見てとれた。


【山の頂・麓の町 ロックタウン】


木製の簡易的な看板がささやかに彼等を出迎える。

人々の往来があるようで、どうやら交易のある町らしい。


「いろいろな村・町・都市がありますが、ここは人の出入りが多い処です。そのため宿や食堂も多いので、お二人が食べれるものもあるでしょう」


「ひとまずそこの一番大きな店に行きましょうか」


そうアイアンが指さしたのは北欧風の建物だった。いい匂いが通ってきたので、おそらく食べ物に関しては問題なさそうだと二人は肩をなでおろす。


「こんにちは。4人なんですけど大丈夫ですか?」


「はーい!どうも!空いてる所座ってね」


賑わっているようで店内はガヤガヤとやや騒がしい。だからこそ都合も良いのだろう。

着席して少し経つと店員らしき人物がメニューを差し出す。

書かれた文字は見たこともなく、知らない言葉だが当然のように読めてしまった。


「ポーク、サーモン、チーズ…よかった、食文化は似たようなもんだ」


「所々謎めいてるけどね。何?このガルバフやらシーランゴーって。コーラとか無いん?」


ひそひそと周囲を気にしつつ兄弟はメニューを確認する。ちなみにドリンク欄は水以外よく分からなかった。

ジュースと書かれたものはいくつか存在したが、こちらの世界独自のフルーツなのか得体の知れないものばかりであった。

ひとまず差し障りのなさそうなものを注文し、さり気なく周囲を見渡す。

建物や内装は北欧風というか、よくRPGの世界観などでみるような定番の見た目であった。各テーブルに運ばれている料理は日本っぽさはあまりなく、海外ドラマで出てくるような大皿でドンとしたものが多い。


「アンタ達も飲めばよかったのに、エール」


木製のジョッキに入った、泡が上部に浮いている飲み物を流し込みながらアイアンが話す。

日本ではあまり馴染みのない呼称だが、エールはビールの一種だったはずだ。


「それ酒だろ?オレ等、一応まだ未成年だしぃ…つーか昼間から呑むなよ!まだまだ聞きたいこともあるっつうのに」


「大丈夫ダイジョーブ。こんなんじゃ酔わないわよぉ」


「ここは中央からも離れてますからね。基本は安全ですし、まあ良いでしょう。お二人も召し上がってくださいね」


店員がサッと配膳していった料理は量こそ多いものの、抵抗なく食べれそうなものばかりだ。

空腹と疲れもあったので、胡菟の面前に運ばれた10キロ近くありそうな肉料理は見なかったこととし、自分達が注文した料理を口に運ぶ。


「ん!美味い」


「マジで味覚とかは同じ感覚でよかった~…!」


空腹を落ち着かせるためそのあとは無心で食べ進める。

丁度食べ終わったぐらいの頃、店内の様子とはまた異なる騒々しさが聞こえてきた。


「やめろ!!!離せ!!」


まだ子供と思われる高い声。悲痛な叫びが店内に響き渡る。声の出どころは外のようだ。


「!!いったい何が…」


「……出ましょうか」


テーブルに数枚の銀貨を置くと、神妙な面持ちをしてアイアンが再び先導する。胡菟も同様に先程までとは打って変わって険しい表情を見せていた。


「おふたりも、見てください」



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