第1話 おわりのはじまり①
日本、関東地方のとある住宅街。
地方にしてた栄えたとある場所で彼等は同時に生を受けた。
姓は相田、
名を兄が紀一・弟が真二と付けられる。
一卵性双生児なのもあり、小さい頃は見た目も思考回路もそれはそれは良く似た子供であった。
だが歳を重ねるにつれ、それぞれの個性が顕著に出るようになり、高校に入学する頃には見た目にも現れる。
社交的で常に人に囲まれて過ごす陽気な兄は髪を明るく染め、耳に幾つかピアスを開け部活動等には所属せず見た目通りに遊ぶ日々。
実直でしっかり者の弟は坊主に近い短髪にし、仲間達と焼けた肌で毎日朝早くと夜遅くまで野球に明け暮れていた。
おおよそ反対な生活を送る二人だがそれでも仲は良く、つい先日行われた野球部の夏の大会には紀一の友人達も含めメガホン片手に総出で真二の応援へ行ったばかりである。
順調に勝ち続け、のこり一勝で全ての野球男児が夢にみる舞台に立てる──ところだった。
遊ぶ暇もなく、どんなに暑くても悪天候でも常に白球と共にあったことを知っていた紀一も試合終了のサイレンを聞くと、真二と同様に涙を流した。
それから3日後のこと、夏期講習のために校舎へと向かっている時であった。
「なんで夏休みなのに学校行かなきゃなんねーんだろうなあ」
パタパタと自前の団扇を仰ぎながら兄・紀一が言う。その横をトボトボと気迫無く歩くのが弟・真二だ。
「そもそもなんで強制なん?希望者だけでいいだろうになあ」
「ま、俺は気が紛れていいけどね」
「頑張ってたもんなあ。でもまだ来年も再来年もあるんだから、そんな卑屈になるなよ」
「そうは言っても考えちゃうんだよ。8回の時に打ててればとか、3回の時のフライが…とか」
「んー…でもさ、皆そう思ってるよ。自分が、自分がって。そう考えれるうちはまだまだ強くなるよ。まだ吹っ切れないだろうけどさ、後2年もあるんだ。頑張ろーぜ」
ハハ、と真二が覇気なく笑う。励ましの言葉に気持ちが少し晴れるが、それでもまだ傷は癒えないようだ。
「悟ってんなあ。おまえいくつだよ」
「たぶんお前と一緒かなッと」
鼻唄まじりに紀一が答えた後、ポツリと額に雨粒が落ちる。
ふと見上げると空が灰色へと一変していた。
「うわ、雨?」
「練習無いから天気予報見てなかったわ〜…走ってこうぜ」
「そだな」
本格的に降る前に、と二人は四車線にまたがる横断歩道を駆け出した。
「ん?」
横からドオォンと重く鈍い音が響く。
そこからはもうあっという間だった。
しかし体感にしたら恐ろしく長い感覚だった。
10トン以上はありそうな大型トラックが、勢い止まらぬまま赤信号停止をしていた車両に次々とぶつかっていく。
朝の出勤ラッシュだろうか、一般的な大衆車が殆どだった。ブレーキがかかることなく突っ込んできた大型車両になす術なく吹っ飛ばされていく様はこの世の終わりかと思えた。
事実、目が合った先頭のコンパクトカーの運転手は顔面蒼白で彼等を見つめ、これから起きることの悍ましさを理解したようだった。
そして紀一と真二も言葉にする時間など到底無かったが、まさに【自分達の】この世の終わりを実感した。
実際は1、2秒ほどだったのだろう。
玉突き状態になった複数の車両とトラックが彼等目掛け、そのまま──。