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(91)慌(あわ)てる

 雑念を湧かす間もなく(あわ)てる場合がある。世間はそれだけ何が起きるか分からない要素含んでいる訳だが、町川も通勤の途中で思いもかけないハプニングに出食わすことになった。まあ、悪いアクシデントではなく済んだのは良かったのだが…。

 いつものように自転車に乗ると、町川は出勤のため家を出た。そして、いつものようにお決まりの公設駐輪場へと向かった。そこから徒歩で約五分ばかりのところに地下鉄の下り階段がある・・といった寸法だ。町川は同じ時間帯で到着する列車を駅ホームで待ち、これもまたいつものように入ってきた列車に乗った。車内は朝早いこともあり、それほど混んでいなかった。と、いうか、町川の目に入る人影は皆無だった。この二本あとの列車から急に乗客が増えることは町川が調べ尽くした結果である。だから、この状況もいつもどおりだった。列車が次の駅へ入り、ドアが開いたとき、一人の老人が杖をつきながらヨロヨロと乗り込んできた。そして、なんとこともあろうに町川の隣の席へヨッコラショ! と座ったのである。車内は乗客がいないこともあり、空きスぺースだらけである。フツゥ~なら適当に空いている座席へ腰を下ろす・・としたものだ。それにもかかわらず、老人は町川の隣の座席へピタッ! と寄り添うように座ったのである。町川は瞬間、何かあるのか? …と思うでなく思った。最初の内はそれほど慌てる気分でもなかった町川だったが数分、列車に揺られていると、老人が(にわ)かに話しかけてきた。

「通勤ですかな?」

「えっ!? ああ、まあ…」

 町川は少し驚いて言葉を濁した。

「今日、お会いしたのも何かのご縁ですじゃ。これなど差し上げましょうかのう…」

 老人は(つぶや)くようにそう言うと、手持ちの頭陀袋(ずだぶくろ)から根付のような時代を物語る古物を取り出した。そして、町川の目の前へ、ゆっくりと突き出したのである。町川もこのときは慌てた。見も知らない老人から突然、よく分からない古物を差し出されたとき、誰しも慌てるに違いない。町川もご多聞に漏れなかった訳である。

「これは…」

 そう(たず)ねるのが町川にとっては関の山だった。

「ははは…見てのとおり、ただの根付ですじゃ…」

「なぜ、私に…」

「ははは…これといった訳もござりませぬが、あなた様に後光が射しておられましたからのう…」

「後光が…」

「はい…」

 町川は、自分は後光が射すほど値打ちがある男ではないが…と(いぶか)ったが、老人の気持を損ねるのもな…と判断し、恐る恐る片手を差し出すと、その根付と思しき物を手にした。

「この根付は…」

「ははは…今も申し上げたとおり、ただの根付ですじゃ…」

 辺りには二人の話を聞く乗客もなかったが、不思議なことに老人はその根付を手渡した途端、スゥ~っと町川の前から跡形もなく消え去ったのである。町川としては慌てるどころの話ではない。これはもう、ホラー以外の何物でもなかった。町川の手元には老人から手渡された根付だけが残されていた。いつもの駅で降りた町川の心に、何だったんだろう…という恐怖にも似た雑念が(ほとばし)った。その後、町川には、いいことばかりが起こるようになった

 こんな調子のいい、慌てるようなハプニングはありませんよね。^^


                  完

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