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(65)気持

 気持というやつは、どうも厄介(やっかい)だ…と、そよ風が時折り頬を(くすぐ)る春五月、勤務を終えた泉川は雑念を浮かばせながら市電に揺られていた。ふと腕を見れば、すでに八時は回っている。ここ最近、年度末の出納閉鎖の書類作成で残業続きだった泉川は、すっかり疲れ果てていた。だが妙なもので、席に座ればすぐスゥ~っと微睡(まどろ)み、(わず)か10分足らずの降りる駅に近づけば、ハッ! と目覚められる泉川だった。だがその日は、気持が(たかぶ)っていた所為(せい)か、少しも眠くならなかった。眠っていないと雑念が巡る。令和四年度と令和五年度予算が混在する五月である。三ヶ月に一度、監査委員を呼んでの月例出納検査が行われるのだが、この時期だけは前年度の出納閉鎖と今年度の出納検査が合わせて検査されるのである。ダブル出納検査ということもあり、泉川は旅の温泉宿にでも逃避したいような気持に(さいな)まれていたのである。

「まあ、いいか…」

 泉川は市電に揺られながら独り言ちた。毎年のことだったから、泉川の頭脳には雑念に対する耐性が出来上がっていたのである。

『次は新桃木(しんももきぃ)~新桃木~です。雀線は乗り換えです…』

 流暢(りゅうちょう)な駅員放送が車内アナウンスに流れた。泉川は新桃木で雀線に乗り換え、終点の百舌鳥(もず)で降りるのである。

『ははは…なんとかなるさ…』

 泉川は深く考えないことにした。

 気持は物事を軽く考えれば、雑念に惑わされることがないようです。^^


                  完

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