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(59)最大思考

 人は、どうも追いつめられれば思考を最大限に高める傾向があるな…と、雲上は雑念を巡らせた。雲上の考では、人の頭脳は追いつめられた瞬間、最大思考し得る能力に()けている…というものである。

「雲上さん、明日までに随契[随意契約]の仕様書、作成しておいて下さい…」

「分かりました、課長」

 県庁の課長補佐、雲上は天下り組で、本省から派遣異動した超大物ということもあり、課長である苫辺(とまべ)の言葉遣いは、他の職員に比べ、当たり(さわ)りがない小声口調だった。なんといっても、翌年の人事異動で本省の管理ポストへ返り咲くことは明々白々だったからである。軽く考えて苫辺に返事した雲上だったが、しばらくすると、ふと脳裏に(かすみ)がかかったような(わだか)りが生じた。それは、仕様書にする去年までの資料ファイルが係員のミスで見つからず、探索中だったことを思い出したのだ。このままでは随契の仕様書は作成できない。雲上はさて、どうしたものか…と机上パソコンのキーを叩きながら沈思黙考した。そこはそれ、やはり本省から派遣異動した超大物である。瞬間、雲上の脳裏は最大思考の(ひらめ)きを見せた。苫辺が部長の国常(くにとこ)に依頼された一件を、ふと、思い出したのである。と、なれば、ここは国常への圧力を、それとなくかければ、一も二もなく問題は解決する…と踏んだのである。国常も雲上が本省からの制服組だということは知っていたから、当然、雲上には頭が上がらなかった。

「まあ、そいうことだから、〇〇の随契は別の職員にやらせてくれんか、苫辺君」

「えっ!? はあ、分かりました…」

 国常自ら課長席に出向き、苫辺にコレコレシカジカ・・と話したのである。苫辺としては上司の国常に命じられれば、どうしようもない。平伏して了解する以外にはなかった。かくして、雲上に瞬間、浮かんだ最大思考は見事、成就し、雲上は事無きを得たのである。

 このように、最大思考の思いつきは、フツゥ~の雑念とは違い、(まと)を得ているのです。^^


                  完

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