(57)連絡
受付でアポを取ってらっしゃいますか? と訊ねられた村雲は、いいえ…と返さざるを得なかった。どうもアポを取ってないとダメなように瞬間、村雲には思えた。ところが、そうですか、まあ、いいですよ…と返されたのには驚かされた。それなら初めから訊くなよ…という雑念が村雲の脳裏を掠めた訳である。しばらくすると、村雲が連絡したのは携帯で、直接、本人と話していたから、すぐ会える…と村雲は軽く考えていたのである。ところが、受付での厳しいチェックが待っていた。村雲は、受付が内線で連絡している間、カンファレンスのロビーに置かれた長椅子で借り物の猫のように小さくなって座って待った。
「お待たせしました…」
しばらくして、エレベーターで降りてきたのは、この会社の会長で93才のおばあさんだった。どうも耳が遠いらしく、村雲が来ることが受付に上手く伝わっていなかったのである。
「はいはい、お待たせしました…。私が社長の母でございます」
「お電話の会長さんですか?」
「ええっ!? いえ、私は母親です…」
「はあ?」
何がどう聞こえたのか、会長の意味不明な返答に村雲は訝しげに生返事で聞き返した。この会社、大丈夫か…と村雲は雑念を巡らせ、取引は遠慮した方がよさそうだと結論づけた。
あとあとになって意味不明な雑念が湧かないよう、相手と内容を確実に連絡しておいた方がいいようです。^^
完




