(54)鬼は外ぉ~福は内ぃ~
見事、国立大学に一発合格した心底冷は、「鬼は外ぉ~福は内ぃ~」と、家の出入口で豆を撒きながら、ふと、雑念を巡らせた。『また今年も豆を撒いている。いったい、何故なんだろう…』と。どうも俺は、パブロフの犬だな…と思え、冷は思わず含み笑いをした。パブロフの犬とは考えもせず、条件反射で物事を繰り返しやってしまう・・という生物学の言葉である。冷は、そしてまた雑念を巡らせた。そうかっ! ひょっとすれば、したことで悪い出来事が最小限に食い止められているのかも知れない…と。ということは、今年も悪い出来事が最小限に食い止められるよう続けているのかも知れないと冷には思えたのである。
『冷ぅ~! 夕飯だから降りて来なさい~~』
豆を撒き終え、二階の自室へ戻った途端、階下のキッチンにいる母親の声が聞こえた。
『鬼は外ぉ~福は内ぃ~の声がしてたが、なんだ、冷はまだか…。いつも一番乗りの冷にしては珍しいな…』
父親が浴室を出た声が、続いて聞こえた。
『そうなのよ…。合格疲れじゃない』
『だな…』
『ただいまぁ~!』
高校の部活から帰ってきた妹の声がした。国体の代表に選考されたこともあり、放課後、遅くまで部活をやっている湯香だ。いつも着替えず、キッチンへ直行するのは空腹だからに違いなかった。
『あらっ! お兄ちゃんはっ!?』
恵方巻をパクつきながらモゴモゴと話す湯香の声がした。
『豆撒きが終わって今、二階よ…』
豆撒きはいつの間にか冷がする心底家の年中行事になっていた。誰が決めた訳でもなく、もちろん冷から買って出た訳でもなかった。
何はともあれ、こうして心底家では今年の節分も終わろうとしていた。冷は今年、数え年の19だから、19+1で20個食うか…いやいやいや、それは食い過ぎだから1(十の桁)+9(一の桁)+1で11個の豆か…と、食べる豆の数の雑念を巡らせながら階段を降りた。なぜこの計算式が定理なのか…? は、国立に一発合格した冷にも未だ理解し得ていない。^^
完




