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(31)捌(は)け口

 雑念を巡らすのも少しくらいならいいが、一定の限度を超えればトラウマとなり、心理的な異常をきたすらしい。皆瀬もその一人で、雑念の()け口を日夜、探していた。皆瀬の雑念は、誰もが気にしないような些細(ささい)なことだった。

 皆瀬は通勤電車に揺られていた。幸いにもその日は空き席があったから座れたが、いつもはギュ~ギュ~詰めの状態の中で押しくら饅頭(まんじゅう)を余儀なくされてたのである。皆瀬は天の救いか…と大仰に考えた。そして、この日に限ってなぜだろう? …と考えた。乗車から降車するまでの時間はおよそ40分あった。皆瀬は目を閉じ、いつもとは違う解き放たれたような感覚の中、目を閉じて考えた。これがいけなかった。どうしても原因が分からないまま降車する駅が近づいてきた。となれば、雑念を浮かべている場合ではない。原因が分からないまま、皆瀬は一端、考えることをやめ、行動した。

 職場の都庁は官室勤務のため、職員の日々の動きは状態的だった。皆瀬は課長補佐のポストだったが、春二月、課長昇格の内示を受け取った矢先だった。だから心は浮かれていた。だがそれは昨日までで、今朝は原因不明の珍事に心のテンションは急激に下がっていた。なぜだ? … なぜ座れた? … という雑念が、皆瀬の心理を駆け巡っていたのである。

「皆瀬君、どうかしたのか? 顔色がよくないぞ…」

 課長の柿沼が心配げに皆瀬の顔を(うかが)った。『はい、実は、なぜ今日は座れたのか? が分かりませんので…』とも言えず、皆瀬は原因を探る雑念から逃れようと、その捌け口を求めた。

 捌け口は案外、手近なところにあった。それは、日々掃除をするメンテナンスのおばさんの顔にあった。おばさんの笑顔が後光が射したような明るさで、その笑顔を見た瞬間、その日の朝の通勤電車の一件が皆瀬の頭から跡形もなく消え去ったのである。不思議と言えば不思議だったが、皆瀬とすれば、捌け口を求めていた矢先だったから、この上なく有り難かった。皆瀬は雑念の捌け口をおばさんの笑顔で獲得したのである。

 雑念の捌け口は案外、手近なところにある・・というお話でした。^^


                  完

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