(25)宝物(たからもの)
誰にも大切にしているものはあるに違いない。要するに、自分にとっての宝物である。この宝物は自分だけの宝物だから、他人が、『そんな物が?…』と不思議に思おうと、本人にとっては宝物なのだ。
楽原も子供の頃から宝物として大切に保管しているビー玉があった。子供の頃、ビー玉遊びで他の遊び仲間からせしめたビー玉が増えるにつれ、楽原にふと、ビー玉に魅了される雑念に取り憑かれるようになったのである。それ以来、楽原は新しいビー玉が増えるにつれ、ニンマリと哂うことが多くなった。
さて、ビー玉が増えると保管場所を確保しなければならない。楽原は家から少し離れた家の所有地である雑木林の一角に穴を掘り、密かに収納するようになった。
『これは少し模様が違ういいビー玉だな…』
大人になってからも楽原はガラス玉の中に模様が入ったビー玉が入手できるとニンマリと悦に入りながら密かに雑木林へ収納した。そんなマニアックな自分を湯船に浸かりながら遠目に見たとき、どこか狂人めいているな…と思ったりもした。
あるとき、楽原が勤めから帰ると、雑木林の方から妙に音が聞こえてきた。祖父に聞くと、土地をとある不動産会社に売却したと言う。さらに問い詰めると、たぶん、雑木林を潰して建物か何かを建てるんだろう…と素っ気なく言い返された。楽原は慌てて雑木林へ一目散に走った。が、時遅しで、雑木林は跡形もなく消え去り、平地になっていたのである。楽原は平地に造成し終わったユンボに乗った建設作業員に訊ねた。
「この辺りにビー玉の箱が埋まっていませんでしたか?」
「さあ? 分かりません…」
ショベルカーに乗った建設作業員は攣れなく言い返した。この瞬間、楽原が子供の頃から宝物に思っていた雑念は跡形もなく消滅した。これが人生か…と、楽原は自分だけの宝物なのに、人生の儚さを重く感じたのである。
宝物は有形無形を問わず、生きている間だけの物ですから、重く考えて雑念に飲み込まれないようにしましょう。^^
完




