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(21)失(な)くす

 アレコレと必要のない雑念を湧かせたばっかりに、いつの間にか大事なものを()くす・・ということがある。

 課長補佐の梅下はその日も用事を済ませ、勤める町役場へ向かおうとしていた。

「すみません。やむを得ぬ急用が出来ましたので、昼まで休ませて戴けないでしょうか?」

「んっ? ああ、いいよ。有給休暇の紙、書いといて…」

 町民の苦情処理をする、年間を通して(ひま)な雑務課ということもあり、課長兼係長の竹川は笑顔で快諾した。

『これで、ようやく完成した庭池に念願の鯉が泳ぐぞ…』

 庭池で錦鯉を飼い、橋の上から餌となる麩を撒く・・というのが梅下の念願だった。その念願が庭池の完成で現実のものとなった訳である。ただ、購入した錦鯉は高額のため、一匹だけだった。^^ それでも購入代金を支払って帰る梅下の気分はウキウキだった。腕を見れば、昼までにはまだ、二時間ばかりある。

『最近、オープンしたファミレスで食事をし、時間を潰そう…』

 梅下は、湧かさなくてもいい雑念を、ふと湧かせてしまったのである。これが、いけなかった。ウキウキ気分で庭池で泳ぐ鯉の姿を想像しながら歩くうちに、ショルダー(かばん)のチャックを閉め忘れ、入れておいた財布を失くしてしまったのである。早い話、歩いているうちに落としていたのだ。田畑の畔道(あぜみち)を近道したのが災いし、どこで落としたか。見当もつかなかった。中にはほんの少しの硬貨と数枚の紙幣が入っているだけだったから、別にどうってこともなかったが、それでもファミレスでのツケが利くかどうか? は疑問だった。一限の客にはフツゥ~だとツケは利かない・・としたものだが、ここは田舎町である。竹川は都合よく考え、一度、行ったことのあるファミレスへと向かった。すると、どうだろう。

「あの…これ落とされました?」

 店へ入った途端、レジ前で梅川は店員に声をかけられた。

「えっ! ええ…」

 入口のレジ机の上に、なんと落とした自分の財布が置かれているではないか! 梅下は(おの)が目を疑った。だが、何度見ても自分の財布で、中には少しの硬貨と数枚の紙幣が入っていた。マジックじゃない。(まぎ)れもなく自分の財布だ…と、寒疣(さむいぼ)を立てながら梅下は確信した。

「あの…これは、どちらが?」

「先ほど、鯉販売店の人が…」

 よくよく考えれば、財布の中には、貨幣の他に梅下の名刺が一枚、それに開店したファミレスの案内状が一枚、入っていたのである。

「なんだ、そういうことか…」

 梅下は畦道で失くしたと早合点したのだが、実は、錦鯉の代金を支払って店の応接セットから立ったとき、財布を落としていたのである。ゾォ~っと寒気がする怪談調の出来事の辻褄(つじつま)が合い、梅下はニンマリと含み笑いをして得心した。

 雑念で物を失くすと、いろいろな出来事が生まれる人の世ならではの、お話でした。^^


                  完

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