(12)意味不明
雑念にもいろいろとあり、ときには意味不明な雑念がふと、湧くことがある。
緒宮登美も、そんな女性の一人だった。
「私…どうかしたのかしら?」
筆が進まなくなった著名作家の緒宮は日々、意味不明な雑念に悩まされるようになった。アレコレと原因を探るのだが、コレといって思い当たることもない。
『あの…先生。お頼みしておりました締め切り原稿の方は…』
痺れを切らした緒宮付きの番記者の鳥打から督促の電話が入ったのは、そのときだった。
「それがね…。あなた、聞いてくれるっ!」
『はあ、お聞きします…』
鳥打としては、何が何でも書いてもらわなければ困るのだ。書いてもらわなければ、番記者である鳥打の地位が危うかった。
「どうしても書けないのよっ! なぜなのっ!」
『はあ…』
意味不明な質問をされても、鳥打に答えられる訳がなかった。
「分からないっ!!?」
『はあ、申し訳ありません。僕には分かりません…』
「僕って、あなたっ! 私でしょ、ワ、タ、シっ!」
『はあ、すいません。私には分かりません…』
怒っているうちに、意味不明にも緒宮の心に小説の題材がふと、浮かんだ。
「もう、いいわっ! 三日後、来てよっ! 書いとくからっ!」
『書いとくって、先生…今、書けないって言われましたよね?』
「あなた、ブチブチと五月蠅いわねっ! 今、書けるようになったのよ、今っ!」
『そうなんですか? 助かります、先生。それじゃ三日後の夕方、ご自宅へ御伺い致しますので、何分よろしく…』
鳥打の電話が切れた瞬間、浮かんでいた題材が意味不明にも緒宮の脳裏から消え去っていた。緒宮は、どうしたものかと…ふたたび雑念に惑わされることになった。
私には緒宮先生が締め切り原稿を書けたのか、どうか? までは、本人に直接、聞いていないので分かりません。^^




